光合成をやめた植物とフィールドワークの魅力
末次健司
私は物心ついた時から生き物が好きでした。図鑑では生き物の名前はカタカナで書かれているため、平仮名よりも先にカタカナを覚えたほどです。光合成をやめた植物との出会いは、小学校低学年の時で、真っ白な「ギンリョウソウ」を初めて見た時に、幼心に「不思議な植物がいるなあ」と感じたことを覚えています。
その後、大学入学後に光合成をやめた植物を研究対象として意識するようになりました。植物にとって光合成は根源的な特徴であり、光合成をやめることによって、菌類や花粉を運ぶ昆虫との関係が普通の植物とは異なるものになります。私はそれに面白さを感じ、「植物だけではなく、キノコも昆虫も研究できるなんて、生き物好きの自分にぴったりだ」と思いました。もちろん、光合成をやめた植物の研究には大変な部分もあります。光合成をやめた植物は葉をつける必要がないため、わずかな期間しか地上に姿を現さないばかりか、全長で数mmしかないものも珍しくありません。そのため調査では苦労が絶えませんが、光合成をやめた植物の不思議を徐々に明らかにすることができています。特に、光合成をやめた植物に目を向けるきっかけとなった「ギンリョウソウ」の新種「キリシマギンリョウソウ」(p.1)を発見できたことは印象深い成果です。ギンリョウソウは世界で1種しか確認されていなかったため、どのくらい違っていれば新種といえるかの判断が難しく、様々な証拠を集めて20年かけて論文を発表することができました。今後も地道にコツコツと研究を続けることで、植物がどのようにして「光合成をやめる」という究極の選択を成し遂げたのかを明らかにしたいと考えています。
私は、野外で生き物の不思議を解明する「フィールドワーク」という活動を重視しています。「フィールドワーク」は、自分の目で観察するというローテクな研究手法ですが、それだけで世界的な発見ができる点が魅力です。日本に生えている植物には、光合成をやめた植物のような特殊なものを除くと、ほぼすべてに名前が付いています。一方で道端や公園に生えている「雑草」であってもその形や匂いにどのような意味があるのかまではよくわかっていません。このため身近な生き物であっても、じっくりと観察すれば、世界中の誰も知らなかった不思議を解き明かすハードルはそれほど高くないのです。ぜひ皆さんも時間をかけて、興味を持った動植物を観察してみてください。どんな生き物でもじっくり観察したら必ず面白い発見があるはずです。
末次健司
1987年、奈良県生まれ。2010年京都大学農学部卒業。2022年から神戸大学理学部教授。専門は進化生態学。光合成をやめた植物の生態を研究し、「キリシマギンリョウソウ」や妖精のランプと呼ばれる「コウベタヌキノショクダイ」など多くの新種を発見。さらに自然界の不思議を明らかにすることをモットーとし、多様な動植物に関する研究も展開。例えば、ナナフシが鳥に食べられても、なお子孫を分散できることを示唆した研究は、驚きをもって迎えられた。
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