アシカ、アザラシがたどった道
水口博也
ぼくは、クジラやイルカのなかまとともに、同じように生活の舞台を海に移した哺乳類であるアシカやアザラシのなかまを、世界の海で長く観察してきました。
一生を海のなかでくらし、海上に姿をみせるのは呼吸をするために浮上するときだけであるクジラやイルカとちがって、アシカやアザラシのなかまは、少なくとも子どもを産み育てる季節は、陸上や北極海、南極海の氷のうえですごします。その季節には、かれらのくらしを妨げることがないように、ある程度の距離をとって双眼鏡や望遠レンズをつかえば、しっかりとそのくらしを観察することができます。そうした観察から生まれたのがこの本です。
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アシカやアザラシのなかまは、ともに海中でのくらしに適応して脚をひれに形を変えたため、「鰭脚類」と呼ばれます。こうしたひとつのグループに属する多くの種を観察するおもしろさは、そのグループの動物たちが共通してどんな体のつくりやくらしを進化させてきたかを知ることができる一方、種のあいだにちがいがあるとすれば、それぞれがすむ海の環境やかれらがたどってきた道のちがいによるものであることをあわせ見ることができることです。
北極海や南極海をおおう海氷上にすむアザラシたちは、防寒のために体にたっぷりと脂肪をたくわえています。いくぶん緯度が低い海でくらすアシカのなかまは、それほどではありません。
そのためもあるのでしょう。多くのアザラシの母親はいったん子を産むと、多くは子別れをするまで自分は餌をとることなく、体にためた栄養分を糧におっぱいを与えつづけ、短期間で子どもをひとりだちさせます。一方、アシカのなかまの母親は、子育て中にも自分も餌をとりに海に出かける必要があり、その分だけ子どものひとりだちは、アザラシにくらべて長びくことになります(本書でも、その両者のちがいを読みとっていただけると思います)。
動物たちの姿かたちやくらしかたは、長い進化の流れのなかで育まれてきたものです。さまざまな動物を観察する楽しみは、かれらがいま見せてくれるくらしぶりを目にしながら、その背景にある悠久のときの流れに思いをはせることができることにあるのかもしれません。
■ 水口博也(みなくちひろや)
1953年、大阪生まれ。大学で海洋生物学を学んだあと、出版社に勤務して自然科学の本を編集。1984年から写真家として独立、世界の海で撮影や取材を行い、多くの著書や写真集を発表。クジラやイルカなど海にすむ哺乳類についての著作が多いが、近年は地球環境の変化を追い、北極、南極から熱帯雨林まで広く地球上の自然や動物について取材を行う。「たくさんのふしぎ」には『コククジラの旅』『南極の生きものたち』『クジラの家族』『シャチのくらし』がある。