8月号『石は元素の案内人』作者のことば
石と一緒に
田中 陵二
私は、小さいときからずっと石が好きでした。はじめて鉱物採集に行ったのは、小学校3年生の時、妙義山(群馬県)です。ここは岩の隙間に小さなメノウ(結晶の形を示さない、白っぽい二酸化ケイ素)がいっぱい入っているところがあります。小学校5年生になると、ひとりで遠くに出歩くようになりました。最初に行ったのは、足尾銅山(栃木県日光市)で、ここは家から片道75キロメートルもあります。
親に内緒で朝早く家を出て、自転車を7時間もこいで足尾の銅山に行き、1時間石を拾って、また7時間かけて群馬県の自宅に帰るのです。今考えるとかなりとんでもない話です。親には内緒にしていたはずでした。ですが、家にたどり着いたとき、自転車のかごに足尾までの道順が線引かれた地図が入っていて、それで行動がバレてしまいました。ただ、怒られるわけではなく、すぐに腕時計を買ってもらったのと、父親の知り合いの地質学者さんを紹介してもらったのをよく覚えています。
中学生になると電車に乗るのを覚え、九州や四国の山奥を半月も放浪していました。各駅停車の電車で片道2日から3日揺られ、リュックにテントや寝袋、食料などを全部詰め、森深い山の中をひとりでうろつきまわりました。今と違って携帯電話があるわけでもなく、危ない思いもずいぶんしましたが、毎回何事もなく帰ってきました。野外で行動をする場合、いろいろ危険なこともあるのですが、あまりにも用心しすぎると何もできないですし、想像力と判断力が足りなければ事故を起こします。自分の能力と体力と相談し、全力の半分ぐらいの余力のところで引き返すのが大事なんだ、ということに気づきました。
その後私は、大学に進んで化学を勉強し、化学の研究者になりましたが、子どものころに学んだ石の知識は未だに役に立っています。父に連れられて行った山や鉱山で見た石がずっと原風景となって私の中身をつくり、大人になった今でもありありと思い出せます。みなさんも、興味を持ったことを、深く掘り下げていろいろ調べて、考えてみてください。その経験は、一生役に立つかと思います。
田中 陵二
1973年、群馬県生まれ。(公益財団法人)相模中央化学研究所主任研究員。東海大学理学部化学科客員教授。群馬大学大学院工学研究科博士後期課程修了。科学技術振興機構研究員などを経て現職。専門は有機・無機ケイ素化学、結晶学および鉱物学。マクロ科学写真の撮影もおこなう。共著に『よくわかる元素図鑑』(PHP研究所)、『超拡大で虫と植物と鉱物を撮る』(文一総合出版)、監修に『GEMS 美しき宝石と鉱物の世界』(東京書籍株式会社)などがある。2013年より月刊誌『現代化学』(東京化学同人)にて「結晶美術館」を連載中。子どもにむけた本は、本作がはじめて。
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