化石から古生物を復元する
犬塚則久
何万年も何億年も前の古代生物のことを古生物といいます。化石とは古生物が残した体や糞、卵の殻、足跡、巣穴などです。三葉虫やアンモナイトなど体が硬い殻でおおわれている動物は、そのままの形が化石となります。いっぽう、恐竜やマンモスのようにたくさん骨のある大きい動物は、たいていバラバラの骨化石としてみつかります。ごくまれにほぼ全身の骨が関節した状態で見つかることがあっても、地層のなかに横たわっているので生きていた時の姿とは違います。
そこで、生きていた時の姿をよみがえらせることを復元といいます。今生きている動物なら、バラバラの骨をもとの姿に組み立てるのは簡単です。しかし、大昔にほろびてしまった動物では、お手本になるもとの姿がわかりません。どうすれば正しく復元できるでしょうか。
まずは骨格復元です。骨格とは複数の骨の集まりのことです。たとえばヒトの骨格は206個の骨からなります。恐竜はすべてほろびていますが、魚からけものまで骨のある動物は今でもたくさんいて、骨と骨のつながり方には一定のきまりがあります。個々の骨と骨格との関係からきまりを見つけて、それをもとに骨を組み立てるのです。
ただケン竜の背中の板のように、今の動物にない骨だとむずかしくなります。ツノ竜は100年も前から見つかっていましたが、前足の形や頭の向きがはっきりしたのはつい最近のことです。
次は肉と皮ふのついた姿の復元です。肉や皮ふは化石に残らないので、骨格復元よりたいへんです。肉のつき方は最も近い親戚のワニを参考にします。皮ふや目や耳など、ワニの種類によって違いの大きいものはほとんどわかりません。哺乳類はたいていまわりの景色にとけ込んだ保護色をしています。ただし個々の種類の柄はまちまちです。今の爬虫類や鳥には派手な色がたくさんみられるので、個々の恐竜の色やもようについては全く手がかりがないといえます。
最後は暮らしの復元です。どんな所にすんで、どういう歩き方をし、何を食べていたのか、ということです。色々な化石のうち、体以外のものは生活のあとを示すので、生痕(せいこん)化石といいます。まわりの環境は、地質学と顕微鏡で見られる細かい化石から推定します。恐竜の歩き方は、体の大きさと解剖学、足跡の化石と振り子の物理学、今の動物の歩き方を組みあわせて考えます。食べ物は同じ時代の植物化石と、歯やあごの形や体つき,それに糞の化石をもとに推定します。ただし、生痕化石はどの恐竜のものかの見きわめがたいへんです。
犬塚則久
理学部で動物化石を学び、医学部で解剖学を教える。化石の骨格復元で理学博士。古脊椎動物研究所の代表。骨の化石の形を今の動物と比べたり、働きを考えたりしながら、生きていた時の姿を復元しようとしている。著書に『しっぽがない!』(「たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店)、『恐竜の骨をよむ』『退化の進化学』(講談社)、『恐竜復元』(岩波書店)など。
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