2022年11月9日水曜日

12月号『名前のチカラ』作者のことば

名前と観ること    


クリハラタカシ


   名前について考えていたら、少し記号に似ている部分があるなと思いました。

 丸にピョコンと線をつけるとリンゴに見えますよね? 記号化したリンゴです。

 実物とはかけ離れている情報量ですがリアルに描かなくてもリンゴと伝わってしまいます。

 名前もそれに似た働きをするなと気がついたのです。

 色や形、味、手触りなどを細かく伝えなくても「リンゴ」というだけで簡単に相手にリンゴをイメージさせることができます。記号も名前も省エネでとても便利ですね。

 そこで昔、鉛筆デッサンの勉強をしていた時のことを思い出しました。

 デッサンの勉強を始めたばかりで石膏像の顔を描くとき、目をぐりぐりと強く目立たせすぎる失敗をすることがあります。

 これは『目を描く』と考えすぎているのが原因、と美術講師に注意されたりします。

 石膏像という白い素材でできた立体物の中では目は眼窩の影の中に隠れて実はあまり目立たないものなのです。

 しかし目というものをあらかじめ知っている(つもりになっている)ので実際のものをよく見ずに、頭の中にある記号化された『目』を描いてしまっているというのです。

 それほど名前や記号性の力は強いのです。

 (今思えば石膏デッサンはそういう言語的な思い込みを一旦剥がすためのものだったのかもしれません。)

 しかし名前を知っているというのは絵を描くために全く邪魔というわけでもありません。

 そもそも『目』という名前や記号性をそう簡単に忘れることはできませんし。

 別の日、自画像の目を描いている時に美術講師はこんなことを言ったりします。

 「もっとまぶたの厚みを感じて……」「眼球の丸さと光沢を……」「涙袋の膨らみを……」「黒目の虹彩を……」

 要約すると「もっと観察して描け」ということなのですが、こうとも言い換えられないでしょうか?

 「もっと細かい名前も意識してそれを描け」と。

 名前を知った上でさらにそこから観察をするのです。知識を観察と表現の手がかりにするのです。

 「人体を描くには筋肉や骨の名前を知っていた方が良い」とも言います。

 名前も記号も使い方が大事な道具なんですね。

 持っている(知っている)数も大切ですし、使い方もさらに大切なようです。

 たくさん手に入れて、それをうまく使いこなせるようになりたいものです。

 そんなことをこの本を書きながら考えました。

 そして三土さんの本『街角図鑑』(実業之日本社)、オススメです。






クリハラタカシ 文・絵

1977年東京都生まれ。マンガ、絵本、イラストレーションなどを制作。主な著書に『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』(ナナロク社)、『ゲナポッポ』(白泉社)、『ぱたぱたするするがしーん』(こどものとも年中向き/福音館書店)などがある。2022年11月に『日曜日のはじめちゃん』(福音館書店)、2023年1月に『コロンペクのいっしゅうかん(仮題)』(福音館書店)を発売予定。 


■「たくさんのふしぎ」のご購入方法は?

①全国の書店さんでお買い求めいただけます(お取り寄せとなる場合もあります)。

②amazon、楽天ブックスなどのウェブ書店さんでもご購入いただけます。(品切れになっていたり定価より高くなっていることがありますが、小社には在庫がありますので、近くの書店さんにご注文頂ければ幸いです)

③定期購読についてはこちらをご覧ください。


2022年10月6日木曜日

11月号『なぜ君たちはグルグル回るのか』作者のことば

 

世界中どこへでも                


佐藤克文

 

野生動物の研究に必要不可欠な要素は何でしょうか。バイオロギングというハイテクを用いた研究手法が考案され、様々な動物の暮らしぶりが明らかになってきました。しかし、どんなに科学技術が進んでも、僻地に出かけ、対象とする動物と数年がかりで対峙する人がいなければ何の発見もありません。情熱を胸に野外調査に勤しむ若者こそが、全てに優る研究の必須要件です。


「どんな人が研究者に向いているのでしょうか?」というのは、私がしばしば受ける質問です。その答えは未だによくわかりません。私が今所属している東京大学には、勉強が良くできる学生が毎年たくさん進学してきます。しかし、学校の成績が良いからといって、必ずしも研究者に向いているわけではないようです。もちろん、成績優秀であることは妨げにはなりません。しかし、プラスαが必要なのです。逆に、子どもの頃から動物が好きという熱意だけで研究者になれるというわけでもなさそうです。これまで何十人もの大学院生と出会ってきました。結果的に彼らが研究者になる場合、その過程には、ある種の共通したパターンがあるように感じています。


 絵本の中では教授が新入生をいきなり外国のフィールドに送り込んだように書きましたが、実際にはそんなことはしません。私の研究室では、まず日本国内の調査地で修業を積んでもらい、数年かけてじっくりと人物を見極めます。「この人なら大丈夫」という確信が得られたら、世界中の調査地に送り込みます。過去には、南極アメリカ基地におけるエンペラーペンギン調査、亜南極フランス基地におけるワタリアホウドリ調査、アイスランドのザトウクジラ調査、西パプアのヒメウミガメ調査など、極域から熱帯に若者たちが出かけていきました。現地では何が起こるか予想もつきません。毎食バナナも全く想定していなかった出来事でしたが、どんな状況でもご機嫌に調査を完遂できる人が求められています。野外調査では失敗が続きます。それを「運が悪かった」で片付けることなく、「何か改良する余地は無いか」とあれこれ工夫をこらして数年間努力すると、ようやくデータが取れ始めます。その後もデータを解析し、英語で書いた論文として発表するまで苦難の日々は続きます。しかし、その過程で経験する苦労を上回る知的興奮を感じられる人、そんな人が研究者になるみたいです。


 本の中で紹介した大学院生とのやり取りは、実際には5人ぐらいの学生との間で交わされたものを凝縮していますが、全て実話です。絵を描いてくれた木下さんは、私の研究室に所属していました。大学院生として入ってきた当初、「絶対に鯨の研究がしたい」と言ってた彼女に、「まずはウミガメで修業だね」といって岩手県の大槌町に送り込んだのは私です。最初の調査シーズンを終えた頃にはすっかりウミガメ屋になっていました。ウミガメ研究で博士号を取った彼女には、今度は海鳥の研究を勧めているところです。研究するイラストレーター、あるいは、自ら描くイラストでアウトリーチまでできてしまう研究者という唯一無二の存在になってくれることを願っています。




装置をつけたウミガメの帰りを待つトモコ


地面に這いつくばって

オオミズナギドリの巣穴に手を突っ込むユースケ



■ 佐藤克文 文(さとう かつふみ)

1967年、宮城県生まれ。東京大学大気海洋研究所教授。農学博士(1995年京都大学)。ナショナルジオグラフィック協会のエマージングエクスプローラー受賞(2009年)。著書に『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』(光文社新書)、『巨大翼竜は飛べたのか』(平凡社新書)などがある。絵本に『動物たちが教えてくれる 海の中のくらし』(福音館書店)があり、2020年より小学校国語五(東京書籍)にも掲載されている。絵本の中の教授のように、研究室の大学院生たちを、世界中のフィールドに送り込みたいといつも考えています。


■「たくさんのふしぎ」のご購入方法は?

①全国の書店さんでお買い求めいただけます(お取り寄せとなる場合もあります)。②amazon、楽天ブックスなどのウェブ書店さんでもご購入いただけます。(品切れになっていたり定価より高くなっていることがありますが、小社には在庫がありますので、近くの書店さんにご注文頂ければ幸いです)

③定期購読についてはこちらをご覧ください。


 

2022年9月5日月曜日

 

2022年9月5日月曜日

10月号『ヒキガエルとくらす クロちゃんとすごした18年』

作者のことば

幼かった日々の思い出 

山内祥子


「祥子や、これ見てごらん」。

祖父が指し示し、わたしの目に入ったもの。そこには長さ1メートルほど、まわりは3、4センチくらいの木の枝が、たくさん積まれていたのです。

家の裏口を出てすぐそばに竹やぶがあり、その竹やぶに囲まれて井戸がありました。木の枝が積まれていたのは、井戸へ水をくみにいく途中のところでした。わたしはいつも目にしていて、とくに変わったことは感じなかったのですが……。

「これはな、おじいちゃんの山の帰りの杖なんだよ」

「え?」

わたしはその数の多さにびっくり、言葉もなく見つめていたおぼえがあります。

おじいちゃんは、わたしの生まれる前々から、何度となく山へ行き来していたのでは? 積まれている杖の数は、一目では数えられるものではなかったのでした。

今でもわたしの中に、その時の情景があざやかに残されているのは何だったのでしょうか。

囲炉裏をかこんでの家族の食事、お代わりはおばあちゃんの役でした。

居間の火鉢にかかった鉄瓶にたぎる湯の音。

そして唯一の暖房であった炬燵。その中へ体ごとすっぽりと入り込んだ時の、あのふんわりとしたまろやかな暖かさ。それは祖父が山で焼いてきてくれた粉炭(細い枝を焼いてできた細かい炭)の暖かさだったのでした。

勤めに出ていた父の山への姿の記憶は、あまりありませんが。

今よりはずっと雪も深く長かった冬。二階からは「トントン……」、祖母と母の機織りの音が聞こえていました。

わたしは弟と二人きょうだいで育ちました。時には十歳年下の弟を背に遊ぶこともありました。

近隣だけでもすぐ遊びなかまは集まります。石けり、国盗り、かくれんぼ、縄とび、おにごっこ、花いちもんめ……。わたしたちは大地を自由にかけ廻り、満ち足りた毎日でした。

四囲は山、続く田、そして桑畑。にぎわしいカエルの声、暗闇の中のホタルの乱舞……。わたしはこのような山深い農村に生まれ育ちました。

けれども今でもふしぎに思うのは、クロちゃんのようなカエルに一度も出会ったことがなかったのです。もしも突然出会えば、わたしはその容姿に大声をあげてしまっていたに違いありません。

夫の勤めの関係で、長野県内各地で暮らしていたことがあります。そんな中、長野の町で1センチにも満たない小さな黒い虫に出会いました。それがわたしの両手で持つほどに大きくなるとは夢々思いませんでした。

クロちゃんとの生活の中で、カエルたちが目立たないけれどもわたしたちにとって大切な存在であることに気づかされました。あらためて、見直すきっかけを与えてくれたクロちゃんでした。




山内祥子

1925年、長野県下伊那郡山本村(現飯田市山本)生まれ。長野県飯田高等女学校を経て、松本女子師範学校卒業後、教職に。現在無職。


■「たくさんのふしぎ」のご購入方法は?

①全国の書店さんでお買い求めいただけます(お取り寄せとなる場合もあります)。②amazon、楽天ブックスなどのウェブ書店さんでもご購入いただけます。(品切れになっていたり定価より高くなっていることがありますが、小社には在庫がありますので、近くの書店さんにご注文頂ければ幸いです)

③定期購読についてはこちらをご覧ください。

2022年8月5日金曜日

9月号『星空をながめて』作者のことば

想像してみよう            

関口シュン

ルナのおばあちゃんのバアバは、高原で野菜を作りながら、大好きな星空をながめて暮らすのが大好きな人です。野菜を作っている人は多くても、ここまで星空のことに詳しい人は珍しいかもしれません。詳しいだけでなく、小学生のルナにもわかりやすく星空のことを教えてくれるところが、本当に心から星空のことが好きなんだなぁと感じます。

 「珍しい」という言葉から、皆さんはどんなことを思いますか?

 「みんなと違う」「違っているところが目立つ」「変わっている」……

 そうですね、珍しいということは、みんなと違うところが目立って珍しがられるけど、その違っているところがとても魅力的で、その人らしい個性が輝いているそんな感じがしますね。

 そんなバアバだからこそ、ちょっと個性的なルナが新しい学校になじもうとする気持ちに寄り添えたのでしょう。きっとバアバも子どもの時から同じ思いを抱いてきたのかもしれません。

 今はまだ、みんなと違って珍しいところも、そのうちにきっと、「ルナらしくていいよ!」と輝くはずだからと思って、バアバは大好きな星空の話をはじめたのでした。

 そして、バアバはこうも考えています。

 星空を動いてゆくわく星たちは、地球と同じ太陽系のわく星ながら、それぞれの個性をもって地球と一緒に動いている。地球から見れば太陽も月も地球の周りをまわっているように見えるから、みんな星空をめぐる仲間のようなもの。

 そのわく星一つひとつの個性を、昔の人たちは、神話や伝説の神様に例えたり、地上で起こるできごとと結びつけたりしてきたのでしょう。

 わく星だけでなく、広大な星空にも星座をつくって、個性的で特別な場所として楽しんできたというわけです。

 そこで、この絵本では、星空や宇宙のシクミを科学的に伝えようとすることよりも、星空を眺めてきた人類がどんな想像を楽しんできたのかを描こうと思いました。その星空に向けた想像力は、今の時代でも私たちをワクワクさせてくれるからです。

 ときには、心がモヤモヤしているときに星空はいやしてくれたり、元気にしてくれたり、夢や希望を星にお願いしたりもしますね。

 街なかや忙しい暮らしでは、なかなか星空をながめることはないかもしれませんが、晴れた夜にはぜひ見上げてみてくださいね。地上の自然と同じように、自分たちは星空にも守られながら、星とつながって生きていることを感じますよ。 





 


関口シュン

1957年、東京生まれ。永島慎二氏に師事し漫画家として月刊ガロにてデビュー。漫画作品のほかに学習絵本作品や児童読み物、犬猫のしつけ本の挿絵など活躍は多岐にわたる。主な作品に『星空の話』(福音館書店)、『日食・月食のひみつ』(子どもの未来社)、『地球の中に、潜っていくと…』(たくさんのふしぎ2019年12月号)などがある。また、心理占星術家として30年以上のキャリアをもち、講座やセミナーなどで後進の育成にあたっている。主な占星術の関連本『はじめての心の星うらない』(かもがわ出版)など。

 


■「たくさんのふしぎ」のご購入方法は? 
 ①全国の書店さんでお買い求めいただけます(お取り寄せとなる場合もあります)。
 ②ヨドバシカメラ、amazon、楽天ブックスなどのウェブ書店さんでもご購入いただけます。 (品切れになっていたり定価より高くなっていることがありますが、小社には在庫がありますので、近くの書店さんにご注文頂ければ幸いです) 

 ③定期購読についてはこちらをご覧ください。 https://www.fujisan.co.jp/product/1559/