2022年12月9日金曜日

2月号『字はうつくしい わたしの好きな手書き文字』作者のことば

  「あ」に寄せて                井原 奈津子


今回、この本の表紙のために、「あ」の字をたくさん集めることになりました。
 習字教室に来てくれている子どもたちにも声をかけ、ノートやメモ書きを貸してもらったのですが、その字を見てちょっとした驚きがありました。習字教室では「手本を見て書く」ので、普段その子がどんな字を書いているのか知らなかったのです。
 「〇〇ちゃんは、いつもはこんな字を書くんだ。可愛いなぁ」「〇〇くんは、本当はこんな字を書く子だったんだなぁ」。その子の知らない一面を見て、なんだか嬉しくなってしまいました。


 でも、習字で書く「整った字」「ていねいな字」が、つまらなくて嘘の字だ、と言っているわけではありません。
 みなさんは「着物」を知っていますよね。大昔から日本人が着ていて、いまでも七五三や成人式、結婚式などで着られている、日本の伝統的な衣服です。着物は、着るのが難しいし動きづらいから、私はめったに着ません。でもたまに着ると、柄は綺麗で嬉しいし、背筋が伸びて気持ちがよく、「いいものだなぁ」と思います。
 私は「習字」も、着物と似ているなと思っているのです。


 千年以上も昔の人が「整っていて綺麗に見える形」を作り上げて、現在まで残してくれた。伝統的で、整ったうつくしさを持つ字を、自分の手で書く喜び。
 それとは別の、それぞれが普段書く字は、気持ちや個性が表れやすいもの。その人の、命のうつくしさ。
 どちらも大事で、素敵なものだと思うのです。どちらもうつくしい。
 そんな思いをこめて、この本を書きました。

 



■ 井原 奈津子 文・構成(いはら なつこ)

1973年、神奈川県生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業後、おもにエディトリアルデザインに関わる。2014年からは習字教室での指導・毛筆ロゴや筆耕の仕事に携わる。2017年『美しい日本のくせ字』(パイ インターナショナル)を出版。YouTubeチャンネル「井原奈津子の「美しい日本のくせ字」」(https://www.youtube.com/channel/UCFkcertfX4AA2hMUKzPU7iQ)。

 

 

 

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2022年12月8日木曜日

1月号『ヘリコプターのしくみ』作者のことば

 ヘリコプターと私                齊藤 茂


私は大学院を卒業後、NASAやJAXAにおいてヘリコプターの専門家として研究に従事してきました。JAXA時代には、ヘリコプターの普及を目指してコラムを執筆していました。私がヘリコプターの研究を始めたのは、ちょっとした「きっかけ」からでした。

もともと宇宙に関心があった私は、大学入学後、宇宙分野の研究を目指していましたが、大学院に進学するときのことです。当時は宇宙に関する研究室が少なく、私は出遅れてしまいました。そのとき、航空機から宇宙機の制御を中心に研究をしている東昭先生と出会いました。これが運命の分かれ道とでもいうのでしょうか。先生はヘリコプターに関しては世界的な権威でした。先生は一言「宇宙機(ロケット)の研究もいいけど、ヘリコプターもいろいろ面白いことがあるよ」。そのときは、そういうものかなと思っていましたが、ヘリコプターの研究を始めてみると、これがなかなか面白く、やればやるほど奥が深いものであることに気づきました。

ロケットを打ち上げる技術は、わが国としてはすでに獲得していましたので、宇宙機を制御する場は、宇宙空間となります。宇宙空間は真空ですから、作用・反作用の原理で移動するので単純明快です。これに対して、ヘリコプターは地球の大気中を飛ぶわけですから、当然空気の状態に影響を受けるわけです。

固定翼機では、推進力をエンジンが作り出し、自重と釣り合う揚力は固定翼が作り出しますが、ヘリコプターでは回転するローターが両方の力を作り出します。空気力の発生機構や操舵機構が全てローターに集中していることが大きな特徴で、様々な革新技術もここに集約されています。このように機構が集中している航空機はヘリコプター以外になく、振動や騒音などの様々な課題を解決するにもローターに集中すればよいというのも魅力的でした。

なかなか解決できない課題もありますが、だからこそやりがいもあります。ヘリコプターが、安価かつ安全で揺れがなく、静かな乗り物になれば近距離での人員輸送も可能となるでしょう。

近年、無人の航空機(ドローン)がわが国で普及してきました。ホビー用から物流や災害監視、農薬散布用と少し大型の機体も活躍しています。しかし、野放図に飛行などをさせると思わぬ事故や事件につながる心配があります。近年このような事例が多数発生しています。そのような背景から、自動車並みの登録制度が必要となり、航空法の改正へとつながりました。

近い将来、操縦ライセンスを持つ操縦者が、識別されたより安全な機体を飛ばす時代が到来することになるでしょう。安全でより効率的に運航されることで、有人航空機と無人航空機が共存する社会が実現する日も近いでしょう。




■ 齊藤 茂 文(さいとう しげる)

1952年埼玉県生まれ、工学博士。東京大学工学部航空学科卒業後、米国NASA Ames研究所にてヘリコプターの振動軽減の研究に従事。帰国後、東京大学工学部航空学科の助手を経て、航空宇宙技術研究所(現JAXA)に入所。主にヘリコプターの空力性能、飛行力学、制御技術に関し、計算流体力学(CFD)技術を駆使した理論解析研究および風洞を用いた実験的研究に従事。また日本航空宇宙学会や日本ヘリコプター協会また大学などでの講演活動を通じて回転翼機の普及に尽力。 

 

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