2023年4月3日月曜日

5月号『種から布をつくる』作者のことば

 布づくりのはじまり

白井仁

 

 布が大好きです。


 大事な人を守りたいという思いで作った布や、お祝いの時に幸せになってほしいと願い作った布など、気持ちのこもった布を見るとドキドキが止まりません。いつから布がこんなに好きだったのかなと考えてみました。

 子どもの時は相撲やサッカーなど外で遊ぶことが好きでした。ですのでその時は恥ずかしくて友達などには言えなかったのですが、実は裁縫も好きでした。縫うことで形になっていくことや、絵を描くように布にチクチク糸を縫っていくことが好きでした。裁縫箱に入っている布を切る大きなハサミ、糸を切る小さなハサミ、縫い糸や針など、これがあればなんでも作れるような気がしてわくわくしました。

 その延長で洋服が好きになっていったのですが、小学校、中学校とおしゃれをすることがなぜか恥ずかしく、毎日サッカーのジャージで過ごしていました。そのおしゃれに対するくすぶっていた思いがどんどん表に出ていったのが高校に入ってからでした。

 その後、自分で理想の洋服を作ってみたいという思いが強くなり、洋服作りが勉強できるデザインの専門学校に進みました。学校での洋服作りでは、まずは用途にあった布を探しにいきました。子どもの頃から裁縫が好きだったこともあり、この生地探しが本当に楽しく、理想の布に出会うために何軒も生地屋さんを回りました。生地屋さんだけでは物足りなくなり、着物を売っているところや海外の手織りの布が売っているところでも生地を買い、洋服を作るようになりました。そして興味は洋服を作ることより布に移っていきました。

 3年生になると、自分の興味のある分野の授業を選ぶことができ、僕は迷うことなく布作りの勉強ができるテキスタイル専攻を選びました。機織りにはこの授業で出会いました。まさか自分で布を作れると思っていなかったので夢中で勉強しました。楽しかったです。

 その後もっともっと機織りの勉強がしたいと思い、沖縄へ移住しました。沖縄を選んだ理由は、機織りが日常生活の中に特別なことではなく普通にあるように感じたからです。町の中に織機など道具を作る人がいて、皆が使える糸を張る場所があり、家では布を織っている風景にとても惹かれました。糸染めや基本の機織りの作業は本で勉強をして経験をつみ、絣などの専門の技術は沖縄県工芸指導所で学びました。ワタの栽培も沖縄で始め、今もそのタネを引き継いで育てています。

 機織りは、やればやるほどできることが本当に少しずつですが増えていきます。頭の中でこんな感じの布が作りたいと思ってもできなかったことが、経験を重ねることでできるようになった時は本当に感動します。手にふれていることで安心したり、身につけることで嬉しい気持ちになってもらえるような布をこれからも作り続けていきたいと思います。


著者が子どもの頃につくったフェルト生地のケース。
お母さんにプレゼントしたもの。





白井仁

1978年神奈川県横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所研究科テキスタイル専攻卒業。染織家。

2000年より沖縄へ移住。沖縄県工芸指導所にて絣技術を学ぶ。沖縄本島に10年間住み、現在は千葉県流山市在住。2009年よりワタの栽培を始め、現在も種からはじめる布づくりを続けている。

 

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