2022年12月9日金曜日

2月号『字はうつくしい わたしの好きな手書き文字』作者のことば

  「あ」に寄せて                井原 奈津子


今回、この本の表紙のために、「あ」の字をたくさん集めることになりました。
 習字教室に来てくれている子どもたちにも声をかけ、ノートやメモ書きを貸してもらったのですが、その字を見てちょっとした驚きがありました。習字教室では「手本を見て書く」ので、普段その子がどんな字を書いているのか知らなかったのです。
 「〇〇ちゃんは、いつもはこんな字を書くんだ。可愛いなぁ」「〇〇くんは、本当はこんな字を書く子だったんだなぁ」。その子の知らない一面を見て、なんだか嬉しくなってしまいました。


 でも、習字で書く「整った字」「ていねいな字」が、つまらなくて嘘の字だ、と言っているわけではありません。
 みなさんは「着物」を知っていますよね。大昔から日本人が着ていて、いまでも七五三や成人式、結婚式などで着られている、日本の伝統的な衣服です。着物は、着るのが難しいし動きづらいから、私はめったに着ません。でもたまに着ると、柄は綺麗で嬉しいし、背筋が伸びて気持ちがよく、「いいものだなぁ」と思います。
 私は「習字」も、着物と似ているなと思っているのです。


 千年以上も昔の人が「整っていて綺麗に見える形」を作り上げて、現在まで残してくれた。伝統的で、整ったうつくしさを持つ字を、自分の手で書く喜び。
 それとは別の、それぞれが普段書く字は、気持ちや個性が表れやすいもの。その人の、命のうつくしさ。
 どちらも大事で、素敵なものだと思うのです。どちらもうつくしい。
 そんな思いをこめて、この本を書きました。

 



■ 井原 奈津子 文・構成(いはら なつこ)

1973年、神奈川県生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業後、おもにエディトリアルデザインに関わる。2014年からは習字教室での指導・毛筆ロゴや筆耕の仕事に携わる。2017年『美しい日本のくせ字』(パイ インターナショナル)を出版。YouTubeチャンネル「井原奈津子の「美しい日本のくせ字」」(https://www.youtube.com/channel/UCFkcertfX4AA2hMUKzPU7iQ)。

 

 

 

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2022年12月8日木曜日

1月号『ヘリコプターのしくみ』作者のことば

 ヘリコプターと私                齊藤 茂


私は大学院を卒業後、NASAやJAXAにおいてヘリコプターの専門家として研究に従事してきました。JAXA時代には、ヘリコプターの普及を目指してコラムを執筆していました。私がヘリコプターの研究を始めたのは、ちょっとした「きっかけ」からでした。

もともと宇宙に関心があった私は、大学入学後、宇宙分野の研究を目指していましたが、大学院に進学するときのことです。当時は宇宙に関する研究室が少なく、私は出遅れてしまいました。そのとき、航空機から宇宙機の制御を中心に研究をしている東昭先生と出会いました。これが運命の分かれ道とでもいうのでしょうか。先生はヘリコプターに関しては世界的な権威でした。先生は一言「宇宙機(ロケット)の研究もいいけど、ヘリコプターもいろいろ面白いことがあるよ」。そのときは、そういうものかなと思っていましたが、ヘリコプターの研究を始めてみると、これがなかなか面白く、やればやるほど奥が深いものであることに気づきました。

ロケットを打ち上げる技術は、わが国としてはすでに獲得していましたので、宇宙機を制御する場は、宇宙空間となります。宇宙空間は真空ですから、作用・反作用の原理で移動するので単純明快です。これに対して、ヘリコプターは地球の大気中を飛ぶわけですから、当然空気の状態に影響を受けるわけです。

固定翼機では、推進力をエンジンが作り出し、自重と釣り合う揚力は固定翼が作り出しますが、ヘリコプターでは回転するローターが両方の力を作り出します。空気力の発生機構や操舵機構が全てローターに集中していることが大きな特徴で、様々な革新技術もここに集約されています。このように機構が集中している航空機はヘリコプター以外になく、振動や騒音などの様々な課題を解決するにもローターに集中すればよいというのも魅力的でした。

なかなか解決できない課題もありますが、だからこそやりがいもあります。ヘリコプターが、安価かつ安全で揺れがなく、静かな乗り物になれば近距離での人員輸送も可能となるでしょう。

近年、無人の航空機(ドローン)がわが国で普及してきました。ホビー用から物流や災害監視、農薬散布用と少し大型の機体も活躍しています。しかし、野放図に飛行などをさせると思わぬ事故や事件につながる心配があります。近年このような事例が多数発生しています。そのような背景から、自動車並みの登録制度が必要となり、航空法の改正へとつながりました。

近い将来、操縦ライセンスを持つ操縦者が、識別されたより安全な機体を飛ばす時代が到来することになるでしょう。安全でより効率的に運航されることで、有人航空機と無人航空機が共存する社会が実現する日も近いでしょう。




■ 齊藤 茂 文(さいとう しげる)

1952年埼玉県生まれ、工学博士。東京大学工学部航空学科卒業後、米国NASA Ames研究所にてヘリコプターの振動軽減の研究に従事。帰国後、東京大学工学部航空学科の助手を経て、航空宇宙技術研究所(現JAXA)に入所。主にヘリコプターの空力性能、飛行力学、制御技術に関し、計算流体力学(CFD)技術を駆使した理論解析研究および風洞を用いた実験的研究に従事。また日本航空宇宙学会や日本ヘリコプター協会また大学などでの講演活動を通じて回転翼機の普及に尽力。 

 

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2022年11月9日水曜日

12月号『名前のチカラ』作者のことば

名前と観ること    


クリハラタカシ


   名前について考えていたら、少し記号に似ている部分があるなと思いました。

 丸にピョコンと線をつけるとリンゴに見えますよね? 記号化したリンゴです。

 実物とはかけ離れている情報量ですがリアルに描かなくてもリンゴと伝わってしまいます。

 名前もそれに似た働きをするなと気がついたのです。

 色や形、味、手触りなどを細かく伝えなくても「リンゴ」というだけで簡単に相手にリンゴをイメージさせることができます。記号も名前も省エネでとても便利ですね。

 そこで昔、鉛筆デッサンの勉強をしていた時のことを思い出しました。

 デッサンの勉強を始めたばかりで石膏像の顔を描くとき、目をぐりぐりと強く目立たせすぎる失敗をすることがあります。

 これは『目を描く』と考えすぎているのが原因、と美術講師に注意されたりします。

 石膏像という白い素材でできた立体物の中では目は眼窩の影の中に隠れて実はあまり目立たないものなのです。

 しかし目というものをあらかじめ知っている(つもりになっている)ので実際のものをよく見ずに、頭の中にある記号化された『目』を描いてしまっているというのです。

 それほど名前や記号性の力は強いのです。

 (今思えば石膏デッサンはそういう言語的な思い込みを一旦剥がすためのものだったのかもしれません。)

 しかし名前を知っているというのは絵を描くために全く邪魔というわけでもありません。

 そもそも『目』という名前や記号性をそう簡単に忘れることはできませんし。

 別の日、自画像の目を描いている時に美術講師はこんなことを言ったりします。

 「もっとまぶたの厚みを感じて……」「眼球の丸さと光沢を……」「涙袋の膨らみを……」「黒目の虹彩を……」

 要約すると「もっと観察して描け」ということなのですが、こうとも言い換えられないでしょうか?

 「もっと細かい名前も意識してそれを描け」と。

 名前を知った上でさらにそこから観察をするのです。知識を観察と表現の手がかりにするのです。

 「人体を描くには筋肉や骨の名前を知っていた方が良い」とも言います。

 名前も記号も使い方が大事な道具なんですね。

 持っている(知っている)数も大切ですし、使い方もさらに大切なようです。

 たくさん手に入れて、それをうまく使いこなせるようになりたいものです。

 そんなことをこの本を書きながら考えました。

 そして三土さんの本『街角図鑑』(実業之日本社)、オススメです。






クリハラタカシ 文・絵

1977年東京都生まれ。マンガ、絵本、イラストレーションなどを制作。主な著書に『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』(ナナロク社)、『ゲナポッポ』(白泉社)、『ぱたぱたするするがしーん』(こどものとも年中向き/福音館書店)などがある。2022年11月に『日曜日のはじめちゃん』(福音館書店)、2023年1月に『コロンペクのいっしゅうかん(仮題)』(福音館書店)を発売予定。 


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2022年10月6日木曜日

11月号『なぜ君たちはグルグル回るのか』作者のことば

 

世界中どこへでも                


佐藤克文

 

野生動物の研究に必要不可欠な要素は何でしょうか。バイオロギングというハイテクを用いた研究手法が考案され、様々な動物の暮らしぶりが明らかになってきました。しかし、どんなに科学技術が進んでも、僻地に出かけ、対象とする動物と数年がかりで対峙する人がいなければ何の発見もありません。情熱を胸に野外調査に勤しむ若者こそが、全てに優る研究の必須要件です。


「どんな人が研究者に向いているのでしょうか?」というのは、私がしばしば受ける質問です。その答えは未だによくわかりません。私が今所属している東京大学には、勉強が良くできる学生が毎年たくさん進学してきます。しかし、学校の成績が良いからといって、必ずしも研究者に向いているわけではないようです。もちろん、成績優秀であることは妨げにはなりません。しかし、プラスαが必要なのです。逆に、子どもの頃から動物が好きという熱意だけで研究者になれるというわけでもなさそうです。これまで何十人もの大学院生と出会ってきました。結果的に彼らが研究者になる場合、その過程には、ある種の共通したパターンがあるように感じています。


 絵本の中では教授が新入生をいきなり外国のフィールドに送り込んだように書きましたが、実際にはそんなことはしません。私の研究室では、まず日本国内の調査地で修業を積んでもらい、数年かけてじっくりと人物を見極めます。「この人なら大丈夫」という確信が得られたら、世界中の調査地に送り込みます。過去には、南極アメリカ基地におけるエンペラーペンギン調査、亜南極フランス基地におけるワタリアホウドリ調査、アイスランドのザトウクジラ調査、西パプアのヒメウミガメ調査など、極域から熱帯に若者たちが出かけていきました。現地では何が起こるか予想もつきません。毎食バナナも全く想定していなかった出来事でしたが、どんな状況でもご機嫌に調査を完遂できる人が求められています。野外調査では失敗が続きます。それを「運が悪かった」で片付けることなく、「何か改良する余地は無いか」とあれこれ工夫をこらして数年間努力すると、ようやくデータが取れ始めます。その後もデータを解析し、英語で書いた論文として発表するまで苦難の日々は続きます。しかし、その過程で経験する苦労を上回る知的興奮を感じられる人、そんな人が研究者になるみたいです。


 本の中で紹介した大学院生とのやり取りは、実際には5人ぐらいの学生との間で交わされたものを凝縮していますが、全て実話です。絵を描いてくれた木下さんは、私の研究室に所属していました。大学院生として入ってきた当初、「絶対に鯨の研究がしたい」と言ってた彼女に、「まずはウミガメで修業だね」といって岩手県の大槌町に送り込んだのは私です。最初の調査シーズンを終えた頃にはすっかりウミガメ屋になっていました。ウミガメ研究で博士号を取った彼女には、今度は海鳥の研究を勧めているところです。研究するイラストレーター、あるいは、自ら描くイラストでアウトリーチまでできてしまう研究者という唯一無二の存在になってくれることを願っています。




装置をつけたウミガメの帰りを待つトモコ


地面に這いつくばって

オオミズナギドリの巣穴に手を突っ込むユースケ



■ 佐藤克文 文(さとう かつふみ)

1967年、宮城県生まれ。東京大学大気海洋研究所教授。農学博士(1995年京都大学)。ナショナルジオグラフィック協会のエマージングエクスプローラー受賞(2009年)。著書に『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』(光文社新書)、『巨大翼竜は飛べたのか』(平凡社新書)などがある。絵本に『動物たちが教えてくれる 海の中のくらし』(福音館書店)があり、2020年より小学校国語五(東京書籍)にも掲載されている。絵本の中の教授のように、研究室の大学院生たちを、世界中のフィールドに送り込みたいといつも考えています。


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2022年9月5日月曜日

 

2022年9月5日月曜日

10月号『ヒキガエルとくらす クロちゃんとすごした18年』

作者のことば

幼かった日々の思い出 

山内祥子


「祥子や、これ見てごらん」。

祖父が指し示し、わたしの目に入ったもの。そこには長さ1メートルほど、まわりは3、4センチくらいの木の枝が、たくさん積まれていたのです。

家の裏口を出てすぐそばに竹やぶがあり、その竹やぶに囲まれて井戸がありました。木の枝が積まれていたのは、井戸へ水をくみにいく途中のところでした。わたしはいつも目にしていて、とくに変わったことは感じなかったのですが……。

「これはな、おじいちゃんの山の帰りの杖なんだよ」

「え?」

わたしはその数の多さにびっくり、言葉もなく見つめていたおぼえがあります。

おじいちゃんは、わたしの生まれる前々から、何度となく山へ行き来していたのでは? 積まれている杖の数は、一目では数えられるものではなかったのでした。

今でもわたしの中に、その時の情景があざやかに残されているのは何だったのでしょうか。

囲炉裏をかこんでの家族の食事、お代わりはおばあちゃんの役でした。

居間の火鉢にかかった鉄瓶にたぎる湯の音。

そして唯一の暖房であった炬燵。その中へ体ごとすっぽりと入り込んだ時の、あのふんわりとしたまろやかな暖かさ。それは祖父が山で焼いてきてくれた粉炭(細い枝を焼いてできた細かい炭)の暖かさだったのでした。

勤めに出ていた父の山への姿の記憶は、あまりありませんが。

今よりはずっと雪も深く長かった冬。二階からは「トントン……」、祖母と母の機織りの音が聞こえていました。

わたしは弟と二人きょうだいで育ちました。時には十歳年下の弟を背に遊ぶこともありました。

近隣だけでもすぐ遊びなかまは集まります。石けり、国盗り、かくれんぼ、縄とび、おにごっこ、花いちもんめ……。わたしたちは大地を自由にかけ廻り、満ち足りた毎日でした。

四囲は山、続く田、そして桑畑。にぎわしいカエルの声、暗闇の中のホタルの乱舞……。わたしはこのような山深い農村に生まれ育ちました。

けれども今でもふしぎに思うのは、クロちゃんのようなカエルに一度も出会ったことがなかったのです。もしも突然出会えば、わたしはその容姿に大声をあげてしまっていたに違いありません。

夫の勤めの関係で、長野県内各地で暮らしていたことがあります。そんな中、長野の町で1センチにも満たない小さな黒い虫に出会いました。それがわたしの両手で持つほどに大きくなるとは夢々思いませんでした。

クロちゃんとの生活の中で、カエルたちが目立たないけれどもわたしたちにとって大切な存在であることに気づかされました。あらためて、見直すきっかけを与えてくれたクロちゃんでした。




山内祥子

1925年、長野県下伊那郡山本村(現飯田市山本)生まれ。長野県飯田高等女学校を経て、松本女子師範学校卒業後、教職に。現在無職。


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2022年8月5日金曜日

9月号『星空をながめて』作者のことば

想像してみよう            

関口シュン

ルナのおばあちゃんのバアバは、高原で野菜を作りながら、大好きな星空をながめて暮らすのが大好きな人です。野菜を作っている人は多くても、ここまで星空のことに詳しい人は珍しいかもしれません。詳しいだけでなく、小学生のルナにもわかりやすく星空のことを教えてくれるところが、本当に心から星空のことが好きなんだなぁと感じます。

 「珍しい」という言葉から、皆さんはどんなことを思いますか?

 「みんなと違う」「違っているところが目立つ」「変わっている」……

 そうですね、珍しいということは、みんなと違うところが目立って珍しがられるけど、その違っているところがとても魅力的で、その人らしい個性が輝いているそんな感じがしますね。

 そんなバアバだからこそ、ちょっと個性的なルナが新しい学校になじもうとする気持ちに寄り添えたのでしょう。きっとバアバも子どもの時から同じ思いを抱いてきたのかもしれません。

 今はまだ、みんなと違って珍しいところも、そのうちにきっと、「ルナらしくていいよ!」と輝くはずだからと思って、バアバは大好きな星空の話をはじめたのでした。

 そして、バアバはこうも考えています。

 星空を動いてゆくわく星たちは、地球と同じ太陽系のわく星ながら、それぞれの個性をもって地球と一緒に動いている。地球から見れば太陽も月も地球の周りをまわっているように見えるから、みんな星空をめぐる仲間のようなもの。

 そのわく星一つひとつの個性を、昔の人たちは、神話や伝説の神様に例えたり、地上で起こるできごとと結びつけたりしてきたのでしょう。

 わく星だけでなく、広大な星空にも星座をつくって、個性的で特別な場所として楽しんできたというわけです。

 そこで、この絵本では、星空や宇宙のシクミを科学的に伝えようとすることよりも、星空を眺めてきた人類がどんな想像を楽しんできたのかを描こうと思いました。その星空に向けた想像力は、今の時代でも私たちをワクワクさせてくれるからです。

 ときには、心がモヤモヤしているときに星空はいやしてくれたり、元気にしてくれたり、夢や希望を星にお願いしたりもしますね。

 街なかや忙しい暮らしでは、なかなか星空をながめることはないかもしれませんが、晴れた夜にはぜひ見上げてみてくださいね。地上の自然と同じように、自分たちは星空にも守られながら、星とつながって生きていることを感じますよ。 





 


関口シュン

1957年、東京生まれ。永島慎二氏に師事し漫画家として月刊ガロにてデビュー。漫画作品のほかに学習絵本作品や児童読み物、犬猫のしつけ本の挿絵など活躍は多岐にわたる。主な作品に『星空の話』(福音館書店)、『日食・月食のひみつ』(子どもの未来社)、『地球の中に、潜っていくと…』(たくさんのふしぎ2019年12月号)などがある。また、心理占星術家として30年以上のキャリアをもち、講座やセミナーなどで後進の育成にあたっている。主な占星術の関連本『はじめての心の星うらない』(かもがわ出版)など。

 


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2022年7月13日水曜日

8月号『石は元素の案内人』作者のことば


石と一緒に

田中 陵二


 私は、小さいときからずっと石が好きでした。はじめて鉱物採集に行ったのは、小学校3年生の時、妙義山(群馬県)です。ここは岩の隙間に小さなメノウ(結晶の形を示さない、白っぽい二酸化ケイ素)がいっぱい入っているところがあります。小学校5年生になると、ひとりで遠くに出歩くようになりました。最初に行ったのは、足尾銅山(栃木県日光市)で、ここは家から片道75キロメートルもあります。

 親に内緒で朝早く家を出て、自転車を7時間もこいで足尾の銅山に行き、1時間石を拾って、また7時間かけて群馬県の自宅に帰るのです。今考えるとかなりとんでもない話です。親には内緒にしていたはずでした。ですが、家にたどり着いたとき、自転車のかごに足尾までの道順が線引かれた地図が入っていて、それで行動がバレてしまいました。ただ、怒られるわけではなく、すぐに腕時計を買ってもらったのと、父親の知り合いの地質学者さんを紹介してもらったのをよく覚えています。


 中学生になると電車に乗るのを覚え、九州や四国の山奥を半月も放浪していました。各駅停車の電車で片道2日から3日揺られ、リュックにテントや寝袋、食料などを全部詰め、森深い山の中をひとりでうろつきまわりました。今と違って携帯電話があるわけでもなく、危ない思いもずいぶんしましたが、毎回何事もなく帰ってきました。野外で行動をする場合、いろいろ危険なこともあるのですが、あまりにも用心しすぎると何もできないですし、想像力と判断力が足りなければ事故を起こします。自分の能力と体力と相談し、全力の半分ぐらいの余力のところで引き返すのが大事なんだ、ということに気づきました。


 その後私は、大学に進んで化学を勉強し、化学の研究者になりましたが、子どものころに学んだ石の知識は未だに役に立っています。父に連れられて行った山や鉱山で見た石がずっと原風景となって私の中身をつくり、大人になった今でもありありと思い出せます。みなさんも、興味を持ったことを、深く掘り下げていろいろ調べて、考えてみてください。その経験は、一生役に立つかと思います。

 

 

                         中学生の著者



田中 陵二
1973年、群馬県生まれ。(公益財団法人)相模中央化学研究所主任研究員。東海大学理学部化学科客員教授。群馬大学大学院工学研究科博士後期課程修了。科学技術振興機構研究員などを経て現職。専門は有機・無機ケイ素化学、結晶学および鉱物学。マクロ科学写真の撮影もおこなう。共著に『よくわかる元素図鑑』(PHP研究所)、『超拡大で虫と植物と鉱物を撮る』(文一総合出版)、監修に『GEMS  美しき宝石と鉱物の世界』(東京書籍株式会社)などがある。2013年より月刊誌『現代化学』(東京化学同人)にて「結晶美術館」を連載中。子どもにむけた本は、本作がはじめて。


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2022年5月9日月曜日

6月号『うんこ虫を追え』作者のことば

 うんこ虫を食べる

舘野 鴻


 私の絵本作家デビューは、死体で子育てをする虫が主役の『しでむし』という本でした。それ以来、地味だったりグロテスクだったり変わり者だったり、そんな虫ばかりを主役にしてきました。でもそれは全部「人から見て」という話。彼らにしてみれば、普段どおりの姿や暮らしをしているだけ。見た目だって、そういう格好じゃなければいけない理由があるから。私は、人から嫌われがちな虫たちが、そんなふうに健気に、懸命に生きている姿を描きたいのです。

 草も虫もケモノも、産まれて死んでいくのはみんな同じ。嫌いだった虫も「何をしているんだろう」とか、「頑張ってるんだな」とか、そんなことをふと感じた瞬間に、ちょっと愛おしく見えてくるものです。虫だけでなく、身の回りにある全てのものでも、「知りたい」と思ってじっくり観察をしていると、観察対象は自分にとって特別なものになり、不思議と輝いて見えてきて、そこから自分がそれまで知らなかったあたらしい世界が見えてきます。これは本当のことです。

 死体やうんこを食ったりするのは、私たちがおいしいご飯をいただくのと同じこと。逆に彼らからすれば、人の姿や行動は奇妙に見えるでしょうね。今回描いた「うんこ虫」、オオセンチコガネは、見た目は宝石のようにキラキラしています。ところが暮らしを追うとうんこまみれ。見た目はいいけど暮らしが不潔すぎる。というのは人の価値観で、彼らにしてみれば当たり前の暮らしをしているだけ。その暮らしを知りたいと思って何年も付き合ってみると、うんこが尊く見えてくるのです。これも本当のことです。

 私もうんこをします。そして、実験上の必要性から「オレフン」でオオセンチコガネやセンチコガネを飼育することになりました。

 普段は自分のうんこなんて、じっくり見ることはないし、匂いを嗅ぐこともない。そんなの常識。でも、その常識って正しいのか? 本来ならば、動物のうんこや死体はさまざまな生きものの大切な資源だということは、現代の暮らしではなかなか想像しにくいかもしれません。人はいつのまにか、自然界の資源のやり取りから切り離されるどころか、資源を一方的にしぼり取るだけの生きものになってしまいました。

 資源の循環ということを考えたとき、私はふとアホなことを思いつきました。オオセンチコガネを食べる。食べれば、この虫は私の血肉になる。そして実行しました。食べたのは蛹。昆虫食の専門家に聞いたところ、幼虫や成虫はお腹の中に未消化のうんこがあって、それが人の体に害があるかもしれないとのことでした。どんな虫でも食べていいわけではないのです。

 茹でて食べたその味は……とうもろこしのように甘く香ばしく、土臭く、そして生臭いものでした。でも食べられました。オレのフンを食った成虫の子をオレが食う。小さな資源循環がそこにありました。とはいえ、自分が丁寧に育てた蛹を食べるのはとても悲しく、つらかった。それが食べる、ということなのかもしれません。








舘野 鴻 
1968年横浜市に生まれる。故・熊田千佳慕に師事。演劇、現代美術、音楽活動を経て生物調査員となり、国内の野生生物全般に触れる。その傍ら教科書、図鑑などの生物画や景観図、解剖図などを手がけ、写真家久保秀一の助言を得て2005年より絵本製作を始める。生物画の仕事は『生き物のくらし』(学研プラス)など。絵本に『しでむし』『つちはんみょう』『がろあむし』(以上、偕成社)、『なつの はやしの いいにおい』『はっぱのうえに』(ともに「ちいさなかがくのとも」/福音館書店)などがある。


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2022年4月7日木曜日

5月号『地球縦断の旅 北極から南極へ』作者のことば

自分の輪郭となった長い旅

石川 直樹



 一年がかりで地球を北から南に縦断したこの旅は、今から思えば夢のような道行きであり、その後の自分の人生を左右する種のようなものをいくつもまいてくれた。

 南極点に到着した後にチームは解散したけれど、ぼくは一人南極に居残り、南極大陸最高峰ビンソンマシフに登頂した。その後、日本へ帰る途中で南米大陸最高峰のアコンカグアにも立ち寄った。二つの山の頂に連続して立てたのは、標高の高い南極を歩き続けて高所順応がある程度できていたこと、POLE TO POLEの解散時に余った食料や道具をもらい受けたこと、そして、何よりも過酷な長旅を通じて経験値が最大限にあがっていたことも大きかった。

 一年ぶりに日本に帰国したのも束の間、ぼくはその勢いでチベットに向かい、エベレストにも登頂した。こうして七大陸の最高峰すべてに登ることができたのだが、それはひとえにPOLE TO POLEプロジェクトによって蓄えられた多様な経験に導かれたと言っていい。

 人生の節目のような旅を終えたぼくは、それから10年にわたって北極圏の小さな街を訪ね歩き、10年後には南極を再訪することにもなる。これらもまたPOLE TO POLEの旅が忘れられず、極地にもう一度身を置きたい、と願い続けたからだった。

 大学を休学して臨んだ一年間の地球縦断の旅だったが、そこで学んだことは、学校で教わることの何十倍も広く、深く、濃密なものになった。英語やスペイン語を習得し、環境や経済や政治について学び、どんな練習よりも実践的なサバイバル・トレーニングのようなものを積み重ね、人間関係の面白さや難しさや複雑さを痛感し、自分自身とも真剣に向き合わざるをえなかった。すなわち、体全身を使って分厚い地球図鑑(そんなものがあるのかわからないけれど…)を読みこんで咀嚼しているような、そんな稀有な一年だった。

 仲間たちのその後の様子はSNSなどを通じて、時おり伝わってくる。みんなそれぞれの道を歩みながらすでに20年以上の歳月が経った。しかし、この旅の記憶は薄れるどころか、今現在の自分の旅ともどこかで必ず結びつき、心の奥底を揺さぶってくる。それは仲間たちも同じではないだろうか。

 旅の経験は目に見える形では残らないけれど、だからこそ自分の中でいつまでも燻り続け、自分の輪郭を作っていく源になる。そうはっきりと言い切れるような充実した旅に巡り合うことのできた22歳のぼくは、本当に幸運だった。





石川 直樹
写真家。1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。辺境から都市まで世界を旅しながら、作品を発表している。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)など多数。たくさんのふしぎには『アラスカで一番高い山』(2020年4月号)がある。


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2022年3月8日火曜日

 


2022年3月8日火曜日

4月号『家をまもる』作者のことば

こわれなかった家 

小松義夫


 インドネシアのスマトラ島沖、そのあたりのインド洋に浮かぶニアス島を訪れたのは30年ほど前です。北部のシワヒリ村に行ったら、あちこちに空飛ぶ円盤のような家がありました。楕円形の舟のような形のものが何本もの柱に支えられて、本当に空とぶ円盤が空中に浮かんでいるように見えました。

 屋根の一部は、戦闘機の操縦席のように上に向かって開いています。窓にはガラスが入っていません。家の中がどうなっているかなと思っていたら、女の人が手まねきしてくれました。暑い中を歩いて汗をたくさんかいていたので、疲れていると思われたのでしょう。「家で休んで行きなさい」と言われました。

 中に入ると、枕を投げてくれました。木の床に横になって、枕を頭に当てて天井を見ているうち、ウトウトして少し眠ってしまいました。おかげで元気になったので、窓のまわりにあるベンチのような長椅子にすわって外を見ました。外を歩く人を見ていると、まるで、船か宇宙船に乗って旅をしている気分になりました。楽しい家だなあと、深く印象に残りました。

 2005年3月25日に、ニアス島で大地震が起きて甚大な被害が出ました。あのシワヒリ村の家がとても心配でした。地震のニュースから約10年たって、ニアス島を再び訪れました。あの楕円形の家が地震でこわれてしまっただろうか、と思っていました。

 しかし、そんなことはなくて、家は以前と同じように建っていてうれしくなりました。村の人に話を聞くと、家は地震でびくともしなかったが、屋根の部分はこわれたと言います。でも、屋根を再びつくるのはかんたんで、費用もほとんどかからなかったのだと。屋根は最初から、いつこわれてもいいように軽い材料でつくってあるのだそうです。屋根の部分は梁の材木と屋根をささえる竹、そしてヤシの葉があればすぐにできると言っていました。地震にそなえて家をまもる工夫に感心しました。




小松義夫

1945年生まれ。東京総合写真専門学校で学ぶ。毎年企業カレンダー「地球・SUMAI」制作に関わり約35年経つ。主な著書に、『ブータン』『エジプト』『セネガル』(偕成社)、『Built by Hand』『HUMANKIND』(Gibbs Smith Publisher,USA)、『Wonderful Houses Around The World』(Shelter Publications,USA)、『地球生活記』(産経児童出版文化賞受賞)『地球人記』『世界あちこちゆかいな家めぐり』(いずれも福音館書店)。ほかに「たくさんのふしぎ」で『世界の子ども きょうから友だち』『土の家』『家をかざる』(以上、福音館書店、現在品切)のほか、『世界の不思議な家を訪ねて』(角川書店)、『僕の家は世界遺産』(白水社)、『人と出会う場所 世界の市場』(アリス館)などがある。


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2022年2月8日火曜日

3月号『都会で暮らす小さな鷹 ツミ』作者のことば

タカを観察してみよう! 

兵藤崇之


 あなたがこの絵本を読んでツミに興味を持ってくれたら、わたしはとても嬉しいです。さらにツミや猛禽類、野鳥を観察してみたいと思ってくれたら、作者冥利に尽きるというものです。でももしかすると、あなたがツミを探しに出かけても見つけられないかもしれません。そんなときのおすすめは、秋のタカの渡りの時期に、渡りの観察ポイントに行くことです。「それって、一体どこ?」バード・ウオッチングの本を調べれば、日本各地の観察ポイントのことが書いてあります。さらにインターネットも調べれば、何月何日に何羽のタカが渡ったかを、克明に記録している人達が各地にいることがわかるでしょう。

 観察ポイントが一人では行けないくらい遠いかもしれません。そんなときには家族の大人に連れて行ってもらえないか、相談してみてください。有名な観察ポイントのひとつが、38~39ページの絵の愛知県の伊良湖岬です。ここは江戸時代に「鷹ひとつ見つけてうれし伊良虞埼」とあの松尾芭蕉が詠んだところです。大昔からずっと毎年タカが渡って、人がそれを観ている。ここの浜辺で10月の晴れた日に双眼鏡を持って空を眺めれば、空を舞うタカの中にツミの姿が見られるでしょう。

 ただ、わたしがちょっと気がかりなのは、遠くを飛ぶ鳥を双眼鏡の視界に収めてピントを合わせるのは、初めてだとかなり難しいということです。タカを見に行く前には、近くの木に止まっている鳥を双眼鏡で見る練習をすると良いでしょう。慣れさえすれば、大丈夫。タカが旋回したときに羽や眼が光る様子まではっきり見えるようになります。

 もうひとつ、見ているタカの種類や性別、年齢を判断することも難しいでしょう。その場でフィールドガイドを調べて、分からなければ詳しい人に教わるのが良いと思います。ただ中には、詳しそうなそぶりをしているけれど、間違えたことを教える人もいるので、注意が必要です。教わったことを書いておいて、家に帰ったら本当に正しいかどうか、図鑑やインターネットを使って自分で確認するのが良いと思います。そのためにも、見たタカの特徴や、時間、飛び方などを絵と一緒に観察ノートに書いておくと役にたちます。

 こうしてタカを観察すると、また見に行きたくなるものです。同じ観察ポイントで同じ人にまた会ったり、違う場所でも同じ人に会ったり、初めて会う人と友達になったりして、段々、タカの観察の深みにはまっていくでしょう。詳しくて信頼できる人、仲良くなれそうな人も自然とわかってくると思います。そうなれば、もうあなたもホーク・ウォッチャー(タカを観察する人)の一員です。実は、タカを観察している人は、日本だけではなくて、アジアの各地、世界の各地にいます。同じ深みにはまった人とは、育った国や話す言葉が違っても、年齢が離れていても、不思議とすぐにわかり合えるものです。今度の秋には、観察ポイントでぜひ一緒にタカを観ましょう。


兵藤崇之

関西育ちで現在は横浜在住。小さいときから、好きなのはお絵描きとお遊戯。好きな動物は、ネコ科の猛獣と猛禽類。小学生のころから水彩画を、大人になって日本画を学ぶ。会社勤めの合間に、趣味で猛禽の保護と観察、スケッチを続けて今日に至る。ツミの観察結果は、過去に学会では報告しているが、絵本にまとめるのは今回が初めて。


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2022年1月11日火曜日

2月号『世界の納豆をめぐる探検』の「作者のことば」

未知の納豆ワンダーランド
高野秀行


 「謎」や「未知」を求め、アジア・アフリカ・南米などに残る辺境を歩き回って早三十数年になる。自分の足と目を使って辺境にある未知の土地や民族、あるいは謎のものを探すのが生き甲斐であり、生業である。広い意味で「探検」とも言える。

 だが最近、この探検はどんどん難しくなってきた。インターネットと携帯電話の普及により、世界全体が高度情報社会時代に突入、探検すべき場所やものが激減しているのだ。たいていのものはネットで検索すると、詳しい情報や画像や動画まで出てきてしまい、わざわざ現地へ行く必要もなく、それが何かわかってしまう。

 これでは私の生き甲斐がなくなってしまうじゃないか。いや、それ以前に失業してしまう!! と悲鳴をあげたくなったところで、ふいに出くわしたのが納豆だった。

 驚いたことに、納豆は「未知の大陸」だった。納豆はあまりにもありふれており、値段も安いので、日本を含め、どこの国でも真剣に研究されていない。値段が安い=価値がないと思われているのだ。実際、これが酒だと国や企業から予算がつくので研究は桁違いに活発になる。だから納豆に関する論文や書籍も極端に少ない。日本の納豆とアジアやアフリカの納豆を比較する人もほとんどいなかった。それが同じ「納豆」であることすら、日本人に知られていなかったほどだ。

 また、アジアやアフリカの諸国では、納豆のような伝統食品はネット上の情報もひじょうに限られている。なぜかというと、ネットに情報をアップするような人は、都市部に住んでいるか若い人かのどちらかで、そういう人は納豆みたいな伝統食品の作り方など知らない。そして、納豆を自分で作っているような人は田舎に住んでいるか高齢者であり、ネットなんかやっていないのである。

 そして、とどめは味と香りである。その食べ物が納豆であるかどうかは画像や動画を見てもいっこうにわからない。発酵していると言っても味噌やチーズの類いかもしれない。でも、自分でそこへ行き、匂いを嗅いで味見してみれば一発でわかる。納豆は世界中どこでも、匂いを嗅げば「あっ、納豆!」と納豆を知る人になら誰にでもわかる。食べればなおさらわかる。

 このような条件が重なり、納豆は高度情報社会の現代において、まさに手つかずのワンダーランドとなっていた。私は7年もの間、この未知なる世界を探検しまくったのだが、それは本当に幸せな時間だった。今回、スケラッコさんの素晴らしい絵とともに、その探検行を読者のみなさんと共有することができ、心から嬉しく思う。



高野秀行

1966年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍中に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。モットーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も書かない本を書く」。『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で第35回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『巨流アマゾンを遡れ』『ワセダ三畳青春記』(ともに集英社文庫)『謎のアジア納豆』(新潮文庫)『幻のアフリカ納豆を追え!』(新潮社)など多数。


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2月号『世界の納豆をめぐる探検』の「作者の漫画」


スケラッコ

漫画家。京都在住。著書に『盆の国』『大きい犬』『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』(リイド社)『マツオとまいにちおまつりの町』(亜紀書房)『みゃーこ湯のトタンくん』(ミシマ社)など。挿絵の仕事に『れんこちゃんのさがしもの』(福音館書店)がある。この本をきっかけにひきわり納豆が好きになりました。


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