6月号『光るきのこ』
作者のことば
きのこたちの役割
宮武健仁
山里を舞うホタルや、浜に青く光るホタルイカなどは、点滅することで暗い夜にひときわ目立ちますが、きのこは光ったり消えたりせず、目立たずにひっそりと光っています。でも光るきのこたちは、光っている数日間は、昼夜関係なしに光っています。ただ昼は、太陽の明るさに負けて緑色の光を感じる事はありません。周りを黒い布などでおおってやると光を確認できます。
初めて八丈島で見た時は、多くの先生方と一緒だったので迷うことなく多くの種類を観察できましたが、その後に1人で森で探すようになると、明るい内に光るきのこを探して、光るはずだと暗くなるまで待っていても光らず、空振りになることが数え切れないほどありました。それだけに闇夜の森に浮かぶように光るきのこに出会えた時の感動はひとしおです。そのワクワクを求めて、腰に熊よけの鈴を鳴らしながら夜の森を歩いています。
残念な事に日本の光るきのこたちは毒があったりして人間は食べられない種類です。だから食べるために「きのこ狩り」をする人たちには採られないので、観察するには都合が良いのかもしれません。
昼の森を歩くと光らない様々なきのこもあり、立ち枯れた木や落ちた枝などから生えていて、大小のきのこが養分を分解しながら枯れた木を土に還して栄養の循環をしています。きのこは、カビやさまざまなばい菌の仲間の「菌類」です。「アンパンマン」の作者のやなせたかしさんが「役を終えた命を大地の栄養に返す大きな役割が菌類にはあり、もしバイキンマンやドキンちゃんたち菌類がいないと世界は死体だらけになるから、この世に無駄な存在は無くみんな地球の大切な仲間なんだよ。」とお話しされていた言葉に、きのこたちの役割を思い出します。
ブナ林では倒れた大木のあとにブナの若葉が芽吹いて、次の世代にバトンタッチして森は保たれていくものです。しかしここ数年、四国の森では野生の鹿が増えすぎて様々な草木を食べ尽くし、ブナの苗木も育たず土砂崩れなども起こし、温暖化とあわせてブナ林の減少が心配されています。森はたくさんの雨を受け止め川を育み、水と山の養分を海に運んで循環させる豊かな自然の原点です。本来の様々な生き物たちがバランス良く暮らしていた日本の自然の循環のサイクルについて、私たち人間はどうかかわっていけば良いのか考えてみたいものです。
宮武健仁
1966年大阪生まれ。徳島育ち。紀伊半島に続き郷里の吉野川で水をテーマとして撮り歩く。2009年に桜島の噴火を見て以来、大地のマグマの「赤い火」と火山風景や、世界有数と言われる光る生き物たちが作り出す光景「地上の光」を求めて夜の撮影に特に注力中。地球の活動が生み出した特徴的な風景や、姿を変えつつ循環する命の水の姿を求め全国を旅する。最近の写真集に「生きている大地『桜島』」(パイインターナショナル)、『Shine-命の輝き』(青菁社)などがある。「たくさんのふしぎ」は『桜島の赤い火』(2013年1月号)、『川のホタル 森のホタル』(2015年6月号)に続き3作目。
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