2024年7月10日水曜日

8月号『光る石 北海道石』作者のことば

新鉱物みつけた!

田中陵二


 私は小学校中学年のころから石が大好きな「石っ子」でした。石を探して、日本全国をさまよい歩いていました。石好きのいちばんの夢は、新しい鉱物を見つけ、自分で名前をつけることです。でも、それにはいろいろなデータを集めて、新発見を証明する必要があります。拾ってきた石がどういうものかを正しく調べられるようになるには、専門の勉強と実験が必要です。
 地球をつくる、いわば細胞にあたるものが鉱物で、その種類は6000種ほど知られています。身の回りにあるのはそのうち100種ぐらいですが、それ以外の鉱物、ましてや今までにない新しいものを発見するのはかんたんではありません。新しいものに気づくには、まずはすでに知られていることをしっかり勉強し、だいたいの鉱物を見分けられるようになるのが大事です。石をじっくり観察して、よく調べ考えて、専門家に見せたりする経験を何年もくりかえすのです。そうすると、石を見て「これはおかしいな?」というカンがはたらきます。でも、そのへんな石を機械で分析しても、そのほとんどは今まで知られていた石の別の姿なのです。そんなことをしていると、たまに、本当の新発見にいきつきます。そんなチャンスが、とうとう私のところにもやってきました。石を集めはじめた小学生のころから数えて、40年がたっていました。
 私は大学時代から今にいたるまで、有機化学といって、炭素という元素を中心とした化学を専門としていました。これとは別に、子どものころから好きだった鉱物や結晶の勉強もずっとしていたのです。これらは互いに別の専門分野なのです。多くの石は有機化合物ではないので、石と有機化学をともに勉強するひとは、世界中にもほとんどいません。
 私たちが見つけた新鉱物「北海道石」は、有機鉱物といって、炭素を主成分とした、とてもめずらしいものでした。これを研究するためには、石を調べる学問である鉱物学や地質学のほかにも、有機化学にくわしい必要があります。たまたま両方を勉強していた私にとっては、幸運でした。そのふたつのあいだは、まだ研究されていないことがいっぱいあったのです。
 みなさんも、これから自分の専門をえらんで勉強し、その知識と経験をもとに社会に出ると思います。そのとき、余力があったら、ふたつのちがう専門を学んでみてください。ふたつの分野をむすびつけることで、それぞれの価値がより増します。1+1が3や4になるのです。 



■ 田中陵二(たなか りょうじ)

1973年、群馬県生まれ。東海大学理学部化学科客員教授。(公益財団法人)相模中央化学研究所主任研究員。群馬大学大学院工学研究科博士後期課程修了。科学技術振興機構研究員などを経て現職。専門は有機・無機ケイ素化学、結晶学および鉱物学。マクロ科学写真の撮影もおこなう。共著に『よくわかる元素図鑑』(PHP研究所)、『超拡大で虫と植物と鉱物を撮る』(文一総合出版)、監修に『GEMS  美しき宝石と鉱物の世界』(東京書籍株式会社)などがある。2013年より月刊誌『現代化学』(東京化学同人)にて「結晶美術館」を連載中。たくさんのふしぎは、『石は元素の案内人』(2022年8月号、現在「たくさんのふしぎ傑作集」として発売中)、『いろいろ色のはじまり』(2023年10月号)に続き3作目。


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