あなたの町にもゾウがいた?
大島英太郎
わたしが住んでいる栃木県には、石灰岩の産地として知られる葛生という場所があります。その葛生に、葛生化石館という小さな博物館があります。
佐野ラーメンで有名な佐野の市街地から、北に向かってしばらく山あいの道を進むと、やがて図書館と隣接した葛生化石館の建物が見えてきます。さっそく化石館の館内に入ると、まずは日本ではここでしか見られないペルム紀の捕食者、イノストランケビアの全身骨格がわたしたちを出迎えてくれます。さらにフズリナ(古生代の海に生息した微小な生物)などの化石を見ながら奥の部屋に進むと、ナウマンゾウやニッポンサイ(メルクサイ)、ヤベオオツノジカなどの、葛生で発見された大型動物の化石がずらりと並んだ部屋があり、その迫力に圧倒されます。(ヤベオオツノジカは、今のニホンジカの2倍の高さがあった大型のシカです。)
なぜ葛生では、このような大昔の動物の化石がたくさん見つかるのでしょう……?
セメントの材料としても使われる葛生の石灰岩は、酸性の水に溶ける性質があるので、長い年月の間に雨水によって浸食され、山の中に大きなすき間(石灰洞)ができます。そのすき間の中にたまたま落ちて死んだ動物の骨は、周囲の石灰岩がアルカリ性なので、溶けてなくならずにきれいに保存されます。……つまり石灰岩は、貴重な化石を保存するタイムカプセルの役目もはたしていたのです。
化石館の中に展示されているナウマンゾウやオオツノジカの化石をまぢかで見ると、今からわずか数万年ほど前までは、わたしたちがすむ日本にも、こんな大型の動物が歩きまわる森や原野が広がっていたのだ……というのが実感できて、何だかワクワクします。(ちなみに、わたしのすむ小山市でもナウマンゾウの歯が見つかっています。)
日本全国ではナウマンゾウのほかにも、さまざまなゾウの化石が見つかっていますが、ゾウの化石と同じ地層から見つかる植物や貝などの化石を調べれば、ゾウが生きていた時代の環境が推測できます。……もしかしたら、今、あなたが住んでいるその場所も、はるか大昔には、巨大な牙をもつミエゾウが歩きまわるメタセコイアの森だったのかもしれません。……あるいは、あなたが北海道にすんでいるなら、そこはケナガマンモスやバイソンの群れが暮らす草原だったかもしれないのです。あなたの地元にある県立博物館などに行けば、その地域にいたゾウについて、何かわかるかもしれません。
■作者紹介
大島英太郎(文・絵)
栃木県生まれ。十代のころから野鳥に興味をもち、自宅に近い渡良 瀬遊水地に通って鳥の観察を続けている。また子どもの頃、恐竜に 関する質問状を国立科学博物館の研究者に送ったのがきっかけで、 恐竜にも興味を持つようになる。おもな絵本に『恐竜のあたまの中 をのぞいたら』、『羽毛恐竜』、『とりになったきょうりゅうのはなし』、『きょうりゅうの おおきさって どれくらい?』(すべて福音館書店)など。
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