日本にも楽しい広場を
小松義夫
私の住む東京の町を歩くと、人々はどこかに向かって、早い川の流れのように歩いているようです。能率的に生活するのが正しいと言わんばかりです。町の中で、ほんのひと時の安らぎや、すぎ行く時間を味わうため休む、ベンチや椅子もありません。座りたければ、お金を払ってお店で休まなければなりません。が、コーヒー店は満員のことが多く、座ってくつろぐことも難しいのです。東京にゆったりとした、みんなが集える広場が欲しいと思います。
東京で広場を探そうと、東京駅丸の内駅前広場に行ってみました。駅から皇居方面に広がる広場には、地面の全面から吹き出す噴水があり、工夫は凝らされていますが、どこかよそよそしいです。設計図に沿った広場のデザインで造られたものです。広場に集まる人々のことより、広場デザインの方が優先されただけの印象でした。
夏にいろいろな駅前広場で盆踊りが行われていますが、そのうちの一つ恵比寿駅に行ってみました。普段はバスやタクシー乗り場ですが、通行止めにしてしつらえた広場の真ん中に、櫓が出来ていてお囃子や太鼓に合わせて櫓の周りを参加する人たちが踊ります。夏の風物詩として楽しいものですが、企業やお店の宣伝が、櫓や近くのビルからこれでもかとぶら下がっていて、変な感じがしました。東京の広場は、人が集うための広場ではなくて、駅前とか交通の中心にある、通り過ぎる広場が多いなあ、と思いました。
この本で紹介しているモロッコ、マラケシュのフナ広場は約1000年の歴史があります。長い間使われてきたうちに、人々が作り出したここならではの独特の雰囲気が発生し2009年にユネスコに「文化空間」として無形文化遺産に指定されました。歴史的な建物でなくて空間(広場)、空気、雰囲気が世界的に評価されているのはおもしろいですね。広場の理想的な見本のようだと思います。日本にも、こんなに楽しい広場があるかな、と探しているところです。
作者紹介
■ 小松義夫 文・写真(こまつ よしお)
1945年生まれ。写真学校で学び中途でエジプトへ渡航。スイスで暗室仕事ののち、車で地中海一周を試み、車の故障により中途で断念。イタリアのローマから汽車でシベリア鉄道を経由で帰国。スタジオ勤務後に東ヨーロッパ、中近東取材をきっかけにフリーランスとなる。その後、世界中の家の姿、形を求めて世界各国に足を運ぶ。著書に『地球生活記』『地球人記』(福音館書店)、『セネガル 貝がら島のマドレーヌ』(偕成社)など多数。「たくさんのふしぎ」には、『世界あちこち ゆかいな家めぐり』『家をかざる』『家をまもる』などがある。