もう一つの世界へ
吉野雄輔
海は、という題で何か海の本を作れないかと、編集者の方からこの題名をいただいたときに、最初に頭に浮かんだのは、昔の歌にある言葉でした。海は広いし大きい……そして海は青い。
海は? と聞かれて、皆さんは何を思い浮かべますか? 人によっては、海はこわいというのもあるでしょう。僕は仕事で1年中、海に潜っていますが、当然海はこわいと思っています。
次に思い浮かんだのが、海は美しい、海は楽しいで、この本の最後にしたいと思いました。50年近く、海へ通い、潜り、感動している僕の実感です。
海は近いってことも言いたかったです。今回の本では、カリフォルニアのラッコの写真を使いました。少し遠いですね。でも日本でも、イルカやアシカのなかまをみることができる場所は、かなりあります。可愛い哺乳類でなくても、たくさんの生き物が、僕たちのすぐそばに暮らしています。
海岸に行けば、生き物にすぐに会うことができます。もし水中メガネをつけて、海面に浮かべば、本当にたくさんの生き物を簡単に見ることができます。だから僕は、水中メガネのことを、魔法のメガネと呼んでいます。
僕の個人的なテーマなのですが、水面という境界を越えると、そこは別世界だということを、皆さんに見せたい、知らせたいということがあります。
誰でも不思議の国のアリスになれるのです。水面を越えると、そこは別世界。
空気はなく、重力の力から逃れて浮かぶことができます。宇宙飛行士の訓練の一つに、水中での訓練がありますよね。宇宙と違って、そこは生き物で溢れているし、簡単に行くことができます。
最後に、本にのせる文章(本文)が難しいな〜と考えていましたが、編集者の方と二人で相談し、僕の下手な文をのせるより、写真で見て感じてもらえば良いと考えました。僕は写真家なので、題に合うような自分の好きな写真を探すことに集中しました。
少しでも海の魅力が感じられるような本になっていると良いな、と思っています。少し大げさですが、この本を読んで、将来、地球上のもう一つの世界への旅人が増えると良いなと思っています。僕自身の海との最初の出会いが、本だったからです。
作者紹介
■ 吉野雄輔 文・写真(よしの ゆうすけ)
1954年、東京生まれ。大きな海から小さな生きものまで、スチール写真を専門に40年以上撮影。写真集、図鑑、写真絵本、雑誌、新聞、広告の世界で活躍。著書に『山渓ハンディ図鑑 改訂版 日本の海水魚』(山と渓谷社)、『世界で一番美しい海のいきもの図鑑』(創元社)、『海のなか のぞいた』(福音館書店) など。「たくさんのふしぎ」では、『海は大きな玉手箱』(101号)『ウミガメは広い海を行く』(174号)『この子 なんの子? 魚の子』(294号)『ヒトスジギンポ 笑う魚』(328号)『サメは、ぼくのあこがれ』(354号)『海のかたち ぼくの見たプランクトン』(391号)『イカは大食らい』(426号)がある。只今世界初?!『日本産幼魚図鑑』制作中。