たくさんのふしぎ11月号は『馬と生きる』(澄川嘉彦 文/五十嵐大介 絵)です。
「遠野物語の後ろ姿を見ているようだ」。それが取材をしていて特に心に残ったことでした。遠野物語には馬が出てくるお話がたくさん採話されています。本作の主人公、70才を越える見方芳勝さんは子どもの頃から馬に親しみ、「地駄引き」とよばれる昔ながらの方法で、馬といっしょに山での仕事を続けてきました。取材を始めた時に、こうした馬とのくらしをしているのは、岩手県遠野市では見方さんだけでした。
見方さんの馬との接し方は独特です。仕事をしているときは、馬をどなり、時にはなぐることもあります。一方、現場を離れると、馬と一つ屋根の下でくらし、好物の植物をたっぷり食べさせてやったり、川で体を優しく洗ってやったりします。
50年間、馬との仕事を続けてきて、飼った馬は50頭。どの馬にも名前をつけたことがないそうです。こうした馬との接し方は、一般的なペットや家畜と人との関係とは明らかに違うものです。見方さんのような馬とのくらしは、遠野では数百年以上受け継がれ、数十年ほど前まで普通にあったものなのだろうと思います。見方さんが持っている馬に対する感情を一言で表現することはできません。しかし、見方さんと馬とのくらしのひとつひとつを丁寧に描くことで、現代の子どもたちにとって新鮮な驚きがあるはずと信じ、本作を企画しました。
文を担当している澄川嘉彦さんは岩手県花巻市在住です。もともとNHKに勤務し、今はドキュメンタリーなどの映像作家として活動されています。NHKの番組で取材をしたのが、見方さんとの出会いでした。その後数年間にわたり取材を続け、本作にまとめてくださいました。
絵を担当しているのは、漫画家の五十嵐大介さんです。五十嵐さんは、岩手県の農村に住み、自給自足の生活をされていたことがあります。その様子は『リトルフォレスト』(講談社)にまとめられています。岩手での生活をされたことがある方だからこそ、本作のための取材を重ねるなかで、見方さんの感じ方に共感し、そのくらしぶりや遠野の自然、そして力強い馬の姿を生き生きと描き出して頂くことができました。
本作のデザインをされている名久井直子さんも岩手県の出身です。(担当者は西日本出身ですが、これまで岩手県を舞台にした絵本を4冊担当しておりまして、岩手が好きです。)岩手県に関係する3人が力を合わせて、『馬と生きる』を作りあげてくださいました。
左から、澄川嘉彦さん、見方芳勝さん、五十嵐大介さん |
(K)
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