2020年10月15日木曜日

 たくさんのふしぎ11月号は『トナカイに生かされて シベリアの遊牧民ネネツ』(長倉洋海 写真・文)です。

 社会も政治も教育も、ニュースを見ていると気が滅入りそうになることが多い今日この頃ですが、長倉洋海さんが撮影したシベリアにすむネネツの人たちの姿を見ていると、「生きているって、なんてすばらしいことだろう」と、なんだか元気がわいてくる作品です。


遊牧民「ネネツ」の生活は、すべてがトナカイに支えられています。トナカイを放牧しながら、ツンドラを移動してくらしています。トナカイの肉を食べ、トナカイの皮で作ったテントに住み、着る物はトナカイの脚の腱をよった糸でトナカイ皮を縫って作ります。ネネツはずっとこの伝統的な放牧生活を続けてきました。そこには作物の育たないシベリアの大地を生き抜く智恵がつまっています。



担当者が好きな写真は16ページにあるトナカイ肉を食べる子どもを撮した一枚。




ネネツの人たちはかたくなに伝統を守っているだけではありませんトナカイを売ったお金で子どものおもちゃや生活に必要なものを買います。インターネットや携帯電話、スノーモービルは生活に欠かせません。子どもたちは寄宿舎でロシア式の教育を受けるようにもなっています。伝統を守りながら、文明とまざり合って、ネネツのくらしはできあがっているのです。




インターネットで検索すれば、世界中のあらゆる場所の情報を得ることができます。写真も無数に出てきます。しかし、実際にその場所に行き、現場の空気を吸い、寝食をともにした人だけが伝えることのできるものがあります。長倉洋海さんの写真には、ネネツのくらしのありのままが撮されています。ただの記録写真を超えて、長倉さんのネネツの人たちへのあたたかなまなざしは、彼ら彼女たちの生きる姿の力強さをとらえています。そして、本を読み終えると、「生きる幸せとは何か?」という、遠く離れた土地でくらすネネツと私たち日本人に共通するものが浮かび上がってきます。『トナカイに生かされて シベリアの遊牧民ネネツ』は、写真絵本の力を改めて感じさせてくれる作品だと、担当者は考えています。



(K)

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