2023年6月6日火曜日

7月号『沈没船はタイムカプセル』作者のことば

 

沈没船の探しかた                

佐々木ランディ 

本文では沈没船から読み解く様々な歴史を紹介することに専念し、沈没船を調べることって面白い! と思ってもらえることを心掛けました。ここでは水中遺跡をどうやって見つけて調べるかについて紹介します。

海の中は、綺麗なところばかりではありません…遺跡のある場所の多くは、20センチ先も見えればよいほう。では、どうやって海の中を見るのか。「音」を使います。いわゆる音波(ソナー)です。やまびこの原理で、音を出して、その音が反射して戻ってくるまでの時間で障害物までの距離を測ります。遺跡を探すには、ソナー装置を船に取り付けて、映し出された海底面の状況を観察します。

ソナーを取り付けている著者

しかし通常のソナーでは、砂の下に埋まっているモノを見つけることはできません。海底面よりも下にあるモノを探すには、サブボトム・プロファイラという特殊な装置を使います。強い音波を海底面に向けて使うことで、海底面の下の堆積状況を見ることができます。例えば、中身のしっかり詰まったおいしいスイカを見分けるため、コンコンとスイカをたたいたことはありますか? 中が詰まっているか、スカスカなのか、音で判断できますね。それと同じ原理を利用しています。そのほかにも、磁気探査機や金属探知機を使って、砂の中に鉄や銅などの金属が埋まっているか探すこともできます。

ソナーで撮影された沈没船

提供:Klein Marine Systems, Inc. / (株)ハイドロシステム開発 - Klein 4K-SVY

考古学者って、最先端の技術を駆使していつも沈没船を探しているように思いますよね? でも、やみくもに海の中を調べるわけではありません。一つは、開発に伴う調査です。海外では、洋上風力発電など海洋開発工事で遺跡が壊されないよう、工事を行う前に海底面を調べることが義務となっています。これにより、数万件の遺跡が確認されています。また、漁師さんやダイバーさんなど、日ごろから海とかかわりのある人への聞き込み調査も行っています。魚の網に壺などがひっかかることが時々ありますが、沈没船が近くにある可能性があります。海で何かを拾ったら、報告してもらうことが歴史発見のカギとなります。

例えば、韓国の新安船。この遺跡は漁師が発見しています。漁師の弟が、兄の家を訪ねたところ、犬のエサのお皿が高級品であることにビックリ! お兄さんの話では、海で拾ったと。学校の教師だった弟は、沈没船があると思い地元の役場に連絡しました。そこから大発見が生まれました。ケーブゲラドニアやウルブルン沈没船も、似たように漁師さんによって見つかっています。実は、考古学者が発見した水中遺跡はほとんどありません。

水中遺跡があるかもしれない! そう考える人がたくさんいれば、それだけ水中遺跡発見の可能性が高まります。水中考古学者の仕事は、そのような人が見つけた遺跡に価値を与えること。多くの人に水中遺跡の存在を知って欲しいといつも思っています。それが、歴史を動かす大発見へとつながる最初の一歩となるからです。次の遺跡を発見するのはあなたかもしれません。 



■ 佐々木ランディ

1976年生まれ、神奈川県出身。高校卒業後、渡米し考古学を学ぶ。テキサスA&M大学大学院にて博士号(人類学部海事考古学)取得。帝京大学文化財研究所准教授、一般社団法人うみの考古学ラボ代表理事。主な著書に、『水中考古学:地球最後のフロンティア』(エクスナレッジ)、『沈没船が教える世界史』(メディアファクトリー新書)など。


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