人間の知恵と工夫
深井聰男
50年以上も前のことです。わたしはイギリスからインドまで、船や列車、バス、乗合自動車、ときどきは歩いて15,000キロを旅したことがあります。途中のイランからアフガニスタンへの旅のついでに、乗合トラックの運転手が見せてくれたのが褐色の丘。てっぺんで木製の塀のようなものが、強い風を受けてゆれていました。風車だといわれましたが、ヨーロッパで見た風車とは形がまったくちがう。近くで見たかったけれど、砂まじりの風に吹かれ、あきらめました。
帰国後、あれが何だったのか調べました。少ない資料でしたが、10世紀頃から残る世界で最古の粉ひき風車とありました。長い間、修理を重ねながら、小麦やトウモロコシを粉にしてきたのでしょう。
いつも強い風が吹いているなら、自分たちの役に立たせようと考え、つくりだしたのが彼らなりの水平型風車。水があるところで使われていた水平型水車を、風車に応用したのかもしれません。さらにこの風車から、ヨーロッパ人は歯車を利用した縦型風車を考え出したのでしょう。
水車風車は粉ひきの道具と思い込んでいましたが、出会ってみて驚きました。水汲みからはじまり、ワインつくりや石材加工、製糸、鉱山、製材、造船、干拓とあらゆる力仕事に水車風車が活躍してきました。多くの人々が考え、試み、最良のやり方を見つけて、利用してきたのです。この本に紹介したのはうまくいった例ですが、期待通りにはいかずに日の目を見なかった使い方もあったことでしょう。
2000年以上も人々の暮らしを支えてきた水車や風車が、産業革命で蒸気機関の発明により、役割を終えていきました。20世紀の終わりには、忘れ去られた動力源とまで言われていました。
しかし、電気の発見が、水車や風車の位置を変えました。電気の利用が広がるにつれて、火力や水力による発電がはじまり、世界中に発電所がつくられました。ほかの発電方法も開発され、すでに朽ちたものとされていた風車が、地球環境を守る切り札のひとつに踊りでてきました。わずか数十年の間の大変化です。
過去の人たちの努力が、こんな形でいまのわたしたちの暮らしを豊かにしてくれています。誰も予想しなかったことでしょう。水、風、電気は自然が生んだ仲間たちです。永遠に存在するエネルギー源です。大切に利用して、新しい地球つくりを目指しませんか。
作者紹介
■ 深井 聰男(ふかい あきお)
1944年、東京都生まれ。20代で北欧から中東、アジアを旅行し、ガイドブックを執筆。欧米の優れた制度や施設を日本に紹介している。著書に『アジアを歩く』(山と溪谷社)、『北欧』(実業之日本社)、『森はみんなの保育園』『まど・窓・まど』(ともにたくさんのふしぎ)など。
■「たくさんのふしぎ」のご購入方法
①全国の書店さんでお買い求めいただけます(お取り寄せとなる場合もあります)。
②ヨドバシカメラ、amazon、楽天ブックスなどのウェブ書店さんでもご購入いただけます。
(amazondでは品切れになっていたり定価より高くなっていることがありますが、小社には在庫がありますので、近くの書店さんにご注文頂ければ幸いです)
③定期購読もお申込みいただけます。たくさんのふしぎ|定期購読 - 雑誌のFujisan
0 件のコメント:
コメントを投稿