コンクリートを使いこなす智恵
細田 暁
「コンクリートの絵本を作りたいのです」と福音館書店の担当編集者に声をかけてもらい、世の中にありふれているのにほとんどの人が詳しいことを知らないコンクリートについて広く興味を持ってもらえるのであれば、とお引き受けしました。
私は土木工学について研究・教育をしていますが、その中でもコンクリートについて研究をしています。土木工学とは、土(地球)を舞台に、木(自然)と共生しながら、人々が安全・安心で豊かなくらしをできるようにするための総合的な工学であると私は認識しています。その目的を達成するために、社会の様々な活動を支える様々なインフラの建設にコンクリートが使われていることが、本書の読者にはわかっていただけたかと思います。
今回の絵本は、コンクリートって何?という素朴な疑問から出発して、コンクリートの基礎的な知識から、コンクリートを使った建設技術のかなり詳しい情報、歴史的な情報、インフラが支える社会、環境・資源の視点等も含んだ多岐に渡る内容となりました。これらを子どもたちがわかるように説明することは想像以上に難しいことでした。編集者、編集部の方々のご助言や、言葉だけでは伝えられない情報や魅力を独特のタッチと細部までこだわった絵で表現していただいた小輪瀬さんに感謝いたします。
コンクリート、というと一般には、固い、冷たい、人工物というあまり良くないイメージを持つ方も少なくないと思います。しかし、コンクリートに使われるセメントの主原料は、太古に生きた生物の化石である石灰石です。そして、砂や砂利などの骨材ももちろん、自然の材料です。コンクリートに特殊な機能を持たせる化学混和剤も石油からできていますので、結局は生物由来です。このような視点をもつだけでも、コンクリートの見方が変わってきませんか?
また、セメントの一部を、製鉄所の副産物のスラグや、石炭火力発電所の副産物の石炭灰で置換しても、しっかりと固まり、むしろ長持ちするコンクリートとなります。私の尊敬する建築家の内藤廣先生は、コンクリートは何でも包み込む母のような材料、とおっしゃっています。これも、コンクリートのイメージが変わる見方ですよね。
私は、コンクリートがどこにでも大量に使われるのを望んでいるわけではありません。皆さんの生活を支えるために必要であれば使われればよいと思うし、使われるのであれば、賢く、自然とも共生できるように使いこなしていくべきだと思っています。コンクリートの材料の製造にも、運搬にも、建設にも、補修・補強や解体にも、エネルギーや資源が使われます。これだけ広く、世界中で大量に使われる材料ですので、人間が智恵を絞りながら上手に活用していくべきです。
本書を通じて、コンクリートについての皆さんの興味が少しでも刺激され、インフラや土木についての関心が少しでも広がるのであれば、著者の望外の喜びです。
細田 暁
1973年生まれ。東京大学工学部土木工学科を卒業後、大学院で博士課程修了。博士(工学)。JR東日本でコンクリート構造物についての実務を経て、横浜国立大学に赴任。現実の社会が良くなることをモットーにコンクリートの研究に取り組み、講義では土木史の熱血授業を全学部生対象に提供。本書の女の子は次女がモデル。
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