2022年3月8日火曜日
4月号『家をまもる』作者のことば
こわれなかった家
小松義夫
インドネシアのスマトラ島沖、そのあたりのインド洋に浮かぶニアス島を訪れたのは30年ほど前です。北部のシワヒリ村に行ったら、あちこちに空飛ぶ円盤のような家がありました。楕円形の舟のような形のものが何本もの柱に支えられて、本当に空とぶ円盤が空中に浮かんでいるように見えました。
屋根の一部は、戦闘機の操縦席のように上に向かって開いています。窓にはガラスが入っていません。家の中がどうなっているかなと思っていたら、女の人が手まねきしてくれました。暑い中を歩いて汗をたくさんかいていたので、疲れていると思われたのでしょう。「家で休んで行きなさい」と言われました。
中に入ると、枕を投げてくれました。木の床に横になって、枕を頭に当てて天井を見ているうち、ウトウトして少し眠ってしまいました。おかげで元気になったので、窓のまわりにあるベンチのような長椅子にすわって外を見ました。外を歩く人を見ていると、まるで、船か宇宙船に乗って旅をしている気分になりました。楽しい家だなあと、深く印象に残りました。
2005年3月25日に、ニアス島で大地震が起きて甚大な被害が出ました。あのシワヒリ村の家がとても心配でした。地震のニュースから約10年たって、ニアス島を再び訪れました。あの楕円形の家が地震でこわれてしまっただろうか、と思っていました。
しかし、そんなことはなくて、家は以前と同じように建っていてうれしくなりました。村の人に話を聞くと、家は地震でびくともしなかったが、屋根の部分はこわれたと言います。でも、屋根を再びつくるのはかんたんで、費用もほとんどかからなかったのだと。屋根は最初から、いつこわれてもいいように軽い材料でつくってあるのだそうです。屋根の部分は梁の材木と屋根をささえる竹、そしてヤシの葉があればすぐにできると言っていました。地震にそなえて家をまもる工夫に感心しました。
小松義夫
1945年生まれ。東京総合写真専門学校で学ぶ。毎年企業カレンダー「地球・SUMAI」制作に関わり約35年経つ。主な著書に、『ブータン』『エジプト』『セネガル』(偕成社)、『Built by Hand』『HUMANKIND』(Gibbs Smith Publisher,USA)、『Wonderful Houses Around The World』(Shelter Publications,USA)、『地球生活記』(産経児童出版文化賞受賞)『地球人記』『世界あちこちゆかいな家めぐり』(いずれも福音館書店)。ほかに「たくさんのふしぎ」で『世界の子ども きょうから友だち』『土の家』『家をかざる』(以上、福音館書店、現在品切)のほか、『世界の不思議な家を訪ねて』(角川書店)、『僕の家は世界遺産』(白水社)、『人と出会う場所 世界の市場』(アリス館)などがある。
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