2023年12月8日金曜日

1月号『食べる』作者のことば

「食べること」のさきに                

藤原辰史

 「毎日の食事? そんなに楽しくないなあ」。そう思う人にこそ読んでほしいという願いを込めて、絵本『食べる』の文章を書きました。なぜなら、小学生のときの私も、食べる量が少なく、好き嫌いが多くて、食べることがそんなに好きではなかったので、食べることに興味が湧かない人の気持ちがよくわかるからです。カレーライスやハンバーグのときはワクワクしたけれど、野菜や魚の煮物のときにはちょっと暗い気持ちになりました。給食でも、嫌いなメニューのときは気持ちがどんよりと落ち込んでいました。みんなと食べても、自分の食べ方をチェックされているようであまり楽しくありませんでした。

大人になったいま、野菜も魚も大好きになり、嫌いなものはほとんどありません。みんなと一緒に食べることがとてもすてきなことだということも理解するようになりました。だから、あの頃の不満顔の自分に、食べることの面白さや楽しさを伝えたいという気持ちもずっと持って、文章を書いていました。

もうひとつ考えていたのは、水や土が汚染され、山火事がふえ、水位が上がり続ける危機的な状況である「地球」と、みなさんの「食べること」がまっすぐにつながっていることをどう伝えるかということでした。高校生になると算数と理科を中心に勉強をするか(理系)、国語と社会を中心に勉強するかで(文系)、コースが変わります。私は、国語と理科が苦手で算数と社会が得意だったので、高校生のときとても悩みました。大学になるとさらにどんどんと勉強が専門的になります。

けれども、私は、どんなに大人になっても小学生のようにずっとすべての科目に関心を持ち続けることが、現在の問題を解決する近道だと信じている、専門家集団である大学ではちょっと珍しい研究者です。この絵本で、さまざまな分野から学んだことを総結集させて書いたのも、「これが本当の勉強だよ。じゃないと、いま壊れつつある地球を救えない」と、友だちだけではなく、おとなにも伝えてほしいからです。食べることは、地球の各地にすむ生きものたちと、それを育て、運んで、売ってくれたみなさんと一緒にあなたとがとりおこなう壮大なお祭りだという考えに行きついたのも、できるだけすべての教科をつなげて考えたからでした。

スケラッコさんの自由でパワフルな絵のおかげで、私がぼんやりと考えてきたことが、もっとはっきりと理解できるようになりました。この絵本は、世界の「食べる」ことを学ぶだけではなく、それを変えるためにも必要だと思っています。『食べる』をヒントにしながら、一緒に史上最大の問題に立ち向かいませんか。

 



藤原辰史(ふじはら たつし)

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。研究テーマは、食と農の現代史。主な著作に『ナチスのキッチン』(共和国、河合隼雄学芸賞)、『給食の歴史』(岩波新書、辻静雄食文化賞)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『分解の哲学』(青土社、サントリー学芸賞)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)、『植物考』(生きのびるブックス)など。

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