2024年1月10日水曜日

2月号『まど・窓・まど』作者のことば

窓にこめられた思い                

深井聰男

 20年以上も前のことです。中国・北京にあった、伝統的な四合院つくりの住宅を見にいきました。まわりを建物に囲まれた閉鎖的な中庭に入ったとき、漢字の「窓」という字を思いだしました。窓の字の上の穴かんむりは、この中庭の上にあいた空を表しているのではないかと。 
 日本では、窓は柱と柱の間の空間といわれています。伝統的な家を見ると、その通りです。この空間を「まど」と呼び、中国からきた寺院の壁の穴を指す「窗」や「窻」の文字をあてはめたのでしょう。文字の穴かんむりは住宅の中庭の上、ヤオトンの中庭の上の穴が想像できます。その下のはまどの枠と中の桟を表しています。下の「心」は、あとで付け加えられたそうですが、心臓の形からつくられた字で、気持ちとか中心という意味があります。日本の柱と柱の間の空間を示す「まど」とは、穴かんむりにしても、まど枠や桟にしても、空間以外に共通する部分がない漢字です。千年以上も使われてきて、1946年に簡略化されて「窓」という字に変わりました。
 窓と同じように、部屋の一部である「戸」も中国からきた漢字ですが、片開きの戸の形そのままです。「柱」の漢字もまっすぐに立つ木を表すだけ。「窻」の漢字だけに、建具を表す字の下に、無関係の心の字がつけられています。それは、暗い部屋から中庭に出たときのさわやかさとか、新鮮な風を受けたときの心地よさ、まどから眺める日常の安心感、まどを見上げたときの好奇心といった心の動きを示しているのでしょう。建具の形を表す「窗」に、人の気持ちを示す心をあとから付け加えた。中国の人々の、まどを愛する特別の感情が秘められている気がします。
 世界の窓を見ると、それぞれに自分たちなりの思いが見つかります。イタリアの二重窓は、内窓は内開き、外窓は左右への外開きです。でもミラノで見た二重窓は、内窓は内開き、外窓は、石壁に埋め込んだ日本流の左右に開く引き戸でした。窓の左右の外壁に描かれたタイル画を隠さないための工夫です。「皆さん、見て下さい、この美しい装飾を」という呼びかけが静かに伝わってきました。
 デンマークでは、二重窓の外窓と内窓の間の空間を、好みのもので飾る習慣があります。置かれているのは、手作りの帆船の模型や毛糸の帽子、刺繍入りのマットなど。その家の個性を映す窓を見せて、人々を元気にしたいという、住む人たちの気持ちがよく表れています。
 日本でもこれからは、その人なりの思いが詰まった窓をたくさんつくって、町を楽しくしてほしいと思います。



深井聰男(ふかい あきお)

1944年、東京都生まれ。20代で北欧から中東、アジアを旅行し、ガイドブックを執筆。欧米の優れた制度や施設を日本に紹介している。著書に『アジアを歩く』(山と溪谷社)、『北欧』(実業之日本社)、『森はみんなの保育園』(たくさんのふしぎ/福音館書店)など。

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