2021年10月8日金曜日

11月号『からだの中の時計』作者のことば

生き物はふしぎ

吉村 崇



 私は自然豊かな滋賀県の田舎で育ちました。子どものころは、動物が大好きな少年で、カブトムシ、クワガタ、アマガエル、カナヘビ、クサガメなど、身近な動物を捕まえて、飼育するのが趣味でした。また、親にねだって、金魚、インコ、ハムスター、ウサギ、犬なども飼育しました。子どものころは動物園に勤めるのが夢でしたが、大学生になって研究を始めると研究の面白さに夢中になりました。最終的には、獣医師で研究者であった父親と、教員一家であった母親の影響もあったのか、研究と教育の両方を楽しむことができる大学の教員の道に進むことにしました。
 目覚まし時計やストップウォッチをもたない動物たちも、からだの中にもっている体内時計で、一日や一年など、様々なリズムを刻むことができます。私は、生き物がもつこの不思議な能力に魅了されて、ずっと体内時計の研究をしています。
 体内時計は、生きるために欠かせないものです。たとえば人間の場合、体温は朝がもっとも低く、午後にピークをむかえます。同様に血圧も、午後に最大になります。わたしたち人間は昼行性ですから、日中に動き回ることを想定して、そのための準備をあらかじめしているのだと考えられます。
 食事の時間が近づくと消化器官の働きが活発になります。夜は体温や血圧が下がり、からだは休息に入ります。普段あまり意識することはありませんが、見えないところで、体内時計が毎日のリズムをつくっているのです。
 私は大学4年生の時に研究の世界に飛び込みましたが、最初は多くの研究者が研究しているマウス(ハツカネズミ)を対象としていました。しかし次第に色々な動物を飼うようになり、気がついたら私の研究室では20種類もの動物を飼うようになりました。私の研究室は「動物園みたい」とよく言われます。動物園で働きたいという、子どもの頃の夢もかなった気分です。毎日、様々な動物に囲まれて、とても楽しく研究しています。「生き物ってすごい」とか「生き物って不思議だな」という好奇心にあふれる皆さんと、いつか一緒に研究できるのを楽しみにしています。


吉村 崇
1970年滋賀県生まれ。1996年名古屋大学大学院博士課程を中退し、名古屋大学農学部助手に着任。2005年助教授を経て2008年より教授。2013年から名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所主任教授、2013年から2019年まで基礎生物学研究所客員教授も担当。動物の体内時計の研究に従事し、日本農学進歩賞、日本学術振興会賞、英国内分泌学会国際賞、アメリカ甲状腺学会バンミーター賞などを受賞。




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